Dietary restriction impacts health and lifespan of genetically diverse mice.
Andrea Di Francesco, et al.
Nature. 634: 684-692 (2024). DOI: 10.1038/s41586-024-08026-3.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39385029/
周知の通り、老化研究はカロリー制限(CR)によるげっ歯類を含むモデル生物の寿命延長と、代謝関連の表現型や遺伝子との関連が主要な分野となっています。近年、総カロリーを減らさなくとも、時間を決めた食事制限(Intermittent fasting, IF)がマウスで代謝変化と健康効果をもたらすことが多く報告されています。しかし、CRとIFのどちらが効果が高いのか、また両者に質的にどのような違いがあるのかはかわかっていません。また、CRやIFへの反応は個体ごとに大きく異なるものの、その背景にある要因や、寿命に相関する生体指標についてもまだ十分にはわかっていません。
今回、筆者らは12系統のマウスを交雑させた遺伝的多様性の高いマウス960匹を、(1)食べ放題(2)IF 1日(3)IF 2日(4)CR 20%(5)CR 40%の5群(N=192)に分け、食事制限による寿命への影響を調べました。また、これらのマウスで多岐にわたる表現型の長期変化と個体の寿命との相関も調べました。
このデザインで多くの発見がありましたが、まず寿命の長さは(5)から(1)の順番となりました。これはカロリー制限の度合いに比例しましたが、(2)IF 1日は総カロリー摂取が(1)食べ放題の群と変わらなかったにもかかわらず、IFにも弱いながら寿命延長効果が見られました。
この960匹のほぼすべての個体のゲノムを解析し、個体ごとの寿命との関連を調べた結果、食事制限よりも、むしろ遺伝型の方が寿命への影響が強いことがわかりました。ヒトでは遺伝的要因よりも環境要因が寿命との関連でより強いとする報告が多い中、同一環境において、食事パターンより遺伝的要素が寿命に強く影響するという結果には意外性があります。
もう一つ意外性の高い結果として、代謝関連のパラメーターが寿命にほとんど相関しなかったことが挙げられます。むしろ、CRで特に痩せる個体が早期に死亡し、痩せない個体ほど長生きする傾向がありました。つまり、CRに伴う体重や脂質の減少は長寿にはほぼ関連しないことがわかりました。また、CRでよく見られる代謝関連の変化である、空腹時血糖やエネルギー消費量、呼吸商の変化も、寿命とは関連がありませんでした。体重減少と長寿が相関しないことは、ラパマイシンと長寿の関係においても拙著(eLife 2016)で報告しています。
他にも、寿命と免疫との相関や、各群におけるプロファイルの違いが多くの測定項目に関して示されています。本論文はデータ量が膨大なため、このあたりにとどめますが、食事制限と老化に関する大辞典的な位置づけとなる内容であり、今後、多くの関連研究の指標となるでしょう。会員の皆様も論文の図表をご覧いただければ、ご自身の研究から新しいアイディアが生まれることと思います。ぜひご一読ください。
最後に、この論文の出資者であり主要な研究スタッフはGoogle出資のCalicoです。今後も、アカデミアの研究室単位では実現できない規模のプロジェクトで、新興企業が驚きの成果を出していく展開が予想されます。
(文責:伊藤 孝)