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編集委員会からのお知らせ:2024年9月号海外文献紹介

Spatially clustered type I interferon responses at injury borderzones.

V. K. Ninh, et al.
Nature.
633: 174-181 (2024). DOI: 10.1038/s41586-024-07806-1.

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39198639/

 これまで心筋梗塞後の非感染性炎症は骨髄細胞の働きによるものと考えられていました。今回、心筋細胞や線維芽細胞のような非免疫細胞におけるI型インターフェロン(IFN)に関わる分子の選択的な抑制が、心筋症の改善に有効だとする新たな報告がありました。そこで、心筋梗塞の境界領域に生じる病的ニッチに関して空間的オミクス解析による新しい発見についてご紹介します。
 著者らは、心筋梗塞発症マウス(12-14週齢・雄)およびヒトの心臓組織において、空間的トランスクリプトーム解析(Visium)とシングルセル解析(MERFISH)を行いました。いずれの場合も、心筋梗塞がインターフェロン誘導遺伝子(ISG)を発現し、インターフェロン誘導細胞(IFNIC)のコロニーを梗塞部位との境界領域(BZ)に誘導することを見いだしました。IFNを誘導するIrf3を細胞(心筋細胞、線維芽細胞、マクロファージ、好中球、血管内皮細胞)特異的に欠損したノックアウトマウスによる比較を行った結果、心筋細胞のみでISGの発現が低いことが明らかになりました。一方で、骨髄細胞の応答に必要なCCR2欠損マウスや樹状細胞の除去ではIFNの発現誘導に関与は見られませんでした。このことから、非免疫細胞である心筋細胞がISGの発現に重要であることがわかります。また、RNAのMERFISH解析により、Ifna2転写物の多くがBZの心筋細胞上にあることを突き止めました。外傷性の損傷(核の破裂などが生じる)によりBZのISGが増加するのと同様に、梗塞マウスのBZにおける心筋細胞では機械的ストレスを受けて核の破壊やDNAの逸脱が生じ、ISGの発現を誘導していました。そこでは、環状GMP-AMP合成酵素依存的な感知とIRF3依存的なIFN産生により、近隣の細胞(IFNレセプターの実験から特に線維芽細胞であることを示しています)にISG発現を誘導し、IFNICコロニーを作ることがわかりました。
 また、心筋梗塞後に致死するマウスを調べた結果では、IFNICコロニーが心室破裂部位の近傍にすぐに現れましたが、IRF3を遺伝子的に阻害したIFNIC欠損マウスでは破裂が抑制され、生存率が改善しました。そして、RNAのMERFISHによりISGの発現する各細胞マーカーについて調べた結果、IFNICコロニーは主に線維芽細胞とマクロファージ上に見られ、IFNレセプターを欠損した線維芽細胞ではISGは発現せず、IFNICコロニーはできませんでした。In vitro 、in vivoの実験において線維芽細胞の活性がISGの発現と相反しており、IFNの応答は保護的な線維芽細胞のマトリセルラータンパク質の応答を阻害することが明らかとなりました。つまり、IFNが線維芽細胞の活性を阻害して心破裂の脆弱性を高めています。
 以上のことから、非免疫細胞におけるIFN産生に関わるIRF3活性などの選択的抑制が広範な免疫抑制を避けた治療上の利点を与えると著者らはまとめています。このことは、高齢者を始め免疫系に課題を抱える多くの患者においても、免疫抑制を伴わずに行える新たな治療法の開発につながる有益な情報であると今後の発展が期待されます。
(文責:板倉陽子)

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