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編集委員会からのお知らせ:2024年7月号海外文献紹介

Inhibition of IL-11 signaling extends mammalian healthspan and lifespan.

Anissa A. Widjaja, et al.
Nature.
Online ahead of print. (2024). DOI: 10.1038/s41586-024-07701-9.

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39020175/

 昨年アップデートされた「Hallmarks of Aging」で、新しく追加されたものの一つが慢性炎症です(Lopez-Otin et al., Cell, 2023)。以前より「Inflammaging」と呼ばれているように、慢性炎症は老化の特徴を最もよく表した状態だと言えます。今回紹介するのは、炎症性サイトカインであるIL-11を抑制することで、マウスの健康・最大寿命が延びることを報告した論文です。
 まず著者らは、マウスの肝臓、白色脂肪組織、腓腹筋で加齢に伴ってIL-11の発現が上昇することを示しました。同時に、老化に関わることが知られているシグナリングパスウェイである、ERK、AMPK、mTORパスウェイの活性や老化細胞マーカーであるp16Ink4a、p21Waf1/Clp1の発現も生化学的に調べ、ERK-mTORパスウェイや老化細胞マーカーが加齢に伴い活性化すること、AMPKの活性が抑制されることを確認しました。興味深いことに、老齢(110週齢)のIL-11受容体欠損マウス(IL-11RA1 KOマウス)では、これらのシグナリングパスウェイや老化細胞マーカーの発現が若い状態に保たれていることがわかりました。さらに、このマウスでは、体重や脂肪量、脂質代謝遺伝子発現などの代謝関連の表現型やテロメアの長さ、mtDNAコピー数が改善していました。次に著者らは、IL-11欠損マウス(IL-11 KOマウス)を用いて同様の実験を行い、同じく代謝関連の表現型やテロメアの長さ、さらにはフレイルの指標が改善することを示しました。ちなみに、IL-11欠損による抗老化作用は、雌雄ともに観察されるようです。
 次に著者らは、老齢マウス(75週齢〜100週齢)に対して、IL-11の中和抗体を用いた介入試験を行いました。その結果、代謝関連、サルコペニア・フレイルおよび老化関連シグナリングパスウェイの指標において、IL-11中和抗体の腹腔内投与(3週間おき)により加齢に伴う悪化が抑制できることを示しました。
 さらに著者らは、IL-11の中和抗体を投与した100週齢マウスの肝臓、白色脂肪組織、腓腹筋を用いてRNA-seq解析を行いました。その結果、それぞれの組織で炎症や老化細胞マーカー関連遺伝子の発現が低下していることがわかりました。また、白色脂肪組織については、褐色脂肪細胞で発現し熱産生に関わることが知られているUcp1の発現が顕著に上昇していることがわかりました。さらに、白色脂肪組織のベージュ化に関わる遺伝子群の発現も有意に上昇しており、熱産生に関わるパスウェイが再活性化されていることが示唆されました。実際に、105週齢のIL-11 KOマウスでは、加齢に伴うUCP1およびPGC1αの発現低下が抑制されていました。
 最後に著者らは、IL-11 KOマウスおよびIL-11中和抗体投与マウス(投与開始75週齢〜)の雌雄それぞれにおいて寿命が延伸することを示しました。また、これらのマウスではがんの発生率も低かったようです。
 この論文は、データだけで判断すると”上手くいき過ぎている感”は否めないものの、老化研究および製薬業界に強烈なインパクトを与える一報だと思います。ただし、本論文中では触れられていませんが、著者らの先行研究では、IL-11 KOマウスのメスは不妊になることが報告されています(Ng et al., Sci. Rep., 2021)。また、炎症性サイトカインのポジティブな作用まで抑え込んでしまうのでは、というセノリティクス薬と同様の議論も巻き起こるのではないかと予想されます。臨床研究の結果を含め、IL-11創薬の今後の展開に注目したいと思います。
(文責:赤木一考)

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