お知らせINFORMATION

  • TOP
  • お知らせ
  • 編集委員会からのお知らせ:2024年6月号海外文献紹介

編集委員会からのお知らせ:2024年6月号海外文献紹介

Brain-muscle communication prevents muscle aging by maintaining daily physiology.

Arun Kumar, et al.
Science.
384:563-572. (2024). DOI: 10.1126/science.adj8533.

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38696572/

 これまでの多くの研究で、加齢に伴う概日時計の乱れが老化の主要な原因の一つとされてきました。概日時計は、生体恒常性の維持において重要な役割を果たしており、その中枢は視交叉上核に存在し、末梢組織に存在する末梢時計と相互作用しながら体内の概日リズムを形成しています。しかし、加齢や生活習慣の変化などによってこのリズムが乱れると、老化の症状が現れることが知られています。特に、概日時計成分であるBmal1を欠損したマウスでは、概日リズムが乱れるだけでなく、サルコペニア様の筋肉の衰弱が見られ早老化を示します。
 今回紹介する論文では、Bmal1欠損マウスを用いて脳と筋肉の各組織単独、もしくは両方でBmal1を再発現させることで各組織時計の筋組織恒常性維持における役割の解明が試みられました。筋肉のみでBmal1を再発現させた場合、筋機能の早老化を防ぐことはできませんでした。一方、脳と筋肉の両方でBmal1を回復させたマウスでは、筋機能老化の大幅な抑制が観察されました。このことから、サルコペニア予防には、脳と筋肉の時計による相互のコミュニケーションが必要であることが示されました。
 興味深いことに、脳のみでBmal1を回復させたマウスの活動期には多くの筋組織遺伝子が発現亢進し、正常マウスおよび脳・筋肉Bmal1同時回復マウスの活動期には正常化しました。このことより、筋肉では非特異的なリズム機能を防ぐために、中枢時計などからの不要なシグナル情報をフィルタリングしていることが示唆されました。加えて、食事時間の制限を設けることで中枢時計が乱れている加齢マウスにおいて、中枢時計のリズム回復とともに筋機能不全を防ぐ可能性が示唆されました。
 今回の研究で、脳と筋肉の概日リズムを相互調整させることが筋機能恒常性維持に重要であり、規則正しい食事パターンがサルコペニアの進行抑制に繋がることが明らかにされました。今後のさらなる詳細な解析により、ヒトでも同様なサルコペニア予防効果が得られることが期待されます。
(文責:橋本理尋)

PDF

バックナンバー