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編集委員会からのお知らせ:2024年4月号海外文献紹介

Depleting myeloid-biased haematopoietic stem cells rejuvenates aged immunity.

Jason B Ross, et al.
Nature.
628:162-170. (2024). DOI: 10.1038/s41586-024-07238-x.

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38538791/

 昨今、研究の目覚ましい発展により様々な加齢疾患の分子制御機序が明らかとなり、それらの老化特異的な分子機序を治療標的とした若返りや健康改善に関する研究戦略が続々と報告されており、いつかは不老不死が叶うのではないかと心躍らせています。とはいえ、人類が実際に不老不死や完全な若返りに行き着くのは遥かに先の未来でしょうが、興味深い最先端の研究結果が続々と報告されているのは事実です。
 免疫系では加齢に伴いリンパ球形成が減少し、適応免疫の低下が認められます。一方で、炎症や骨髄病変などは増加することは昔から知られています。最近になり、自己複製をする造血幹細胞(HSC)の性質が加齢に伴い変化し、これらの表現型を誘発している分子機構が解明されてきました。若年期には、リンパ系細胞と骨髄系細胞にバランスよく分化するHSC(bal-HSC)が骨髄系に偏った分化を行うHSC (my-HSC)よりも優勢であるため、適応免疫応答の開始に必要なリンパ球形成が促進される一方で、炎症を促進する骨髄系細胞の産生は制限されます。老齢ではmy-HSCの割合が増加し、その結果としてリンパ球形成の低下と骨髄系細胞の増加が引き起こされています。本論文では、my-HSCの特異的な抗原を標的とした抗体の投与によりmy-HSCを選択的に減少させることで、加齢で崩れたリンパ球形成と骨髄系細胞形成のバランスを可逆的に整えることができ、若齢の免疫パターンに近づけることができると報告しています。
 著者らはmy-HSC上の特異的な表面抗原を詳細な実験から同定しました。HSCは(Lin-KIT+SCA1+FLT3-CD34−CD150+)の特徴を有します。本論文では、bal-HSCと比較してmy-HSCでCD150の発現量がより上昇していることを示し、抗体治療の標的としてCD150が有用であることを確かめました。また、bal-HSCと比較してmy-HSCで特異的に発現が上昇している他の抗原マーカーの候補として、CD41、CD61、CD62p、NEO1などが選別されました。抗体とフローサイトメトリーを用いた実験検証では、CD41は巨核球前駆体(MkP) で高発現しているものの、CD61、CD62p、NEO1ではオフターゲットは少なそうであるという結果を得ました。加えて、CD41、CD61、CD62p、NEO1が成熟造血細胞では発現が低く、他の組織と比較しても造血幹細胞で特異的であることがわかりました。
 実際に、12ヶ月齢のマウスから単離したHSCでは、6ヶ月齢のマウス由来のHSCと比較してCD41、CD61、CD62p、NEO1の発現が高いmy-HSCの割合が増加していました。著者らは、抗体投与により生体からmy-HSCを除去可能か調べるため、ラットIgG2b抗CD150抗体を6~7ヶ月齢のマウスに投与し、約1週間後に骨髄を調べました。興味深いことに、bal-HSCと比較してmy-HSCが著しく減少しました。これらの結果は、in vivoでの抗体投与によりmy-HSCを選択的に枯渇させ、全HSCにおけるbal-HSCの割合を優位にすることができることを示しています。詳細は割愛しますが、抗CD150抗体、抗CD47抗体、抗KIT抗体を組み合わせることで、より効果的にmy-HSCを特異的に枯渇させることができることを見出しました。他にも、抗CD62p抗体、抗CD47抗体、抗KIT抗体の組み合わせや、抗NEO1抗体、抗CD47抗体、抗KIT抗体の組み合わせも有効であることを実験的に示しました。老齢マウスに抗体投与を行うと、短期的な約1週間後から数ヶ月後の長期に至るまでmy-HSC枯渇の持続が認められました。また抗体投与群では、8週目にはリンパ球前駆細胞、ナイーブT細胞、ナイーブB細胞が増加し、リンパ球の加齢関連の免疫低下が改善されました。加えて、若齢マウスと比較して、高齢マウスではIL-1αやCXCLなどの炎症促進因子が増加しますが、抗体投与を行った老齢マウスではこれらの炎症促進因子が有意に減少していました。加えて、抗体治療を施したドナー老齢マウスから調製したHSCを別のレシピエント老齢マウスに移植しても、同様の免疫改善効果が認められることを報告しています。
 次に、NEO1抗体投与でmy-HSCを枯渇させた老齢マウスに生弱毒化したフレンドレトロウイルス (FV) ワクチンを静脈内に投与して10~14日後に免疫力を調べたところ、非投与の老齢マウスと比較して、脾臓でウイルス特異的に応答するCD8+T細胞が増加しており、ワクチン接種に対する一次反応が改善されていました。加えて、老齢マウスに抗NEO1抗体投与をしてから8週間後にワクチン接種し、さらに接種から6週間後に病原性FVを感染させたところ、一次反応と同様に免疫応答が改善されていました。
 最後に著者らは、ヒトでも加齢や加齢性疾患に伴いmy-HSCの割合が増加していることを確認しました。加えて、ヒトのmy-HSCでもCD150、CD62p、NEO1などが高発現していることを報告し、将来的な臨床応用への可能性を示唆して締め括っています。
 個人的には、将来的な臨床応用に際して、若者の造血幹細胞を高齢者に移植するのが最良の方法なのでしょうが、抗体治療を施した高齢者由来の造血幹細胞の移植によっても別の高齢者の延命ができるというのは興味深いと感じました。
 ご興味がありましたら、是非ご一読願いたいと思います。
(文責:橋本理尋)

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