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編集委員会からのお知らせ:2024年3月号海外文献紹介

Asymmetric distribution of parental H3K9me3 in S phase silences L1 elements.

Zhiming Li, et al.
Nature.
623:643-651. (2023). DOI: 10.1038/s41586-023-06711-3.

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37938774/

 LINE (long interspersed nuclear element; LINE-1)レトロトランスポゾンなどの反復DNAはもともと「ジャンクDNA」とも呼ばれ、哺乳類のゲノムの半分以上を占める無機能なDNAと考えられてきましたが、遺伝子制御、クロマチン構造、ゲノムの安定性維持などの重要な役割が明らかになってきています。LINE-1はがんや心疾患などの病気、早老症患者で増加することも明らかになっており、老化や様々な疾患に大きく関連します。LINE-1を含む反復DNA配列の転写はDNAメチル化やH3K9me3などのヒストン修飾により抑制されます。H3K9me3がヘテロクロマチンのサイレンシングの確立と維持に果たす役割については広く研究されてきましたが、複製中のDNA鎖での親H3K9me3の配分機構は解明されていませんでした。本論文では親H3K9me3は優先的に複製フォークのリーディング鎖に移され、この非対称な分布は主にLINE-1部分で起こり、LINE-1発現を抑制することを明らかにしました。
 細胞有糸分裂時のDNA複製の鋳型は、DNAの合成方向と複製フォークの進行方向が一致するリーディング鎖と、DNAの合成方向と複製フォークの進行方向が逆になりDNA断片を順次連結するラギング鎖の2種類存在し、リーディング鎖側でより早くDNA複製が進行します。特異的な翻訳後修飾受けた親ヒストンはDNA複製フォークのリーディング鎖とラギング鎖に均等に転移すると考えられていました。まず、マウスES細胞で細胞分裂中のメチル化親ヒストンの分布をeSPAN法で調べました。親ヒストンのH3K9me2、H3K27me3、H4K20me3などは複製のリーディング鎖とラギング鎖に均等に分布していましたが、予想外に親H3K9me3のみリーディング鎖側に非対称分布していました。この非対称分布が起こるゲノムの特徴調べたところ、特にLINE-1で親H3K9me3の非対称分布が起きていました。
 これまでの研究で、TASOR、MPP8、PPHLN1で構成されるHUSH複合体がLINE-1発現を抑制することが明らかになっています。実際に、親H3K9me3の非対称分布とHUSH複合体サブユニットTASORの分布が相関し、HUSH複合体欠損は親H3K9me3の非対称分布が減少しました。また、リーディング鎖DNAポリメラーゼPol εがリーディング鎖への親ヒストンの転移を促進することも明らかになっています。Pol εサブユニットであるPOLE3またはPOLE4欠損細胞は複製時の親H3K9me3のリーディング鎖非対称分布が有意に減少し、非対称分布におけるPol εの寄与も示されました。HUSH複合体とPol εが直接結合することも確認しています。これらの結果から、HUSH複合体がDNA複製フォークのリーディング鎖に沿って移動し、Pol εと相互作用しながら親H3K9me3のリーディング鎖LINE-1への転移を促進することが示されました。
 最後に、H3K9me3 の非対称分布が DNA 複製中の LINE-1 発現を抑制するかどうかを調べました。ES細胞のHUSH複合体またはPol εのサブユニットを欠失させて親H3K9me3の非対称分布を抑制するとS期におけるリーディング鎖LINE-1発現が増加しました。これらの欠損細胞でγ-H2AXが増加することから、複製時の親ヒストンの非対称分布はLINE-1発現を抑制し、DNA損傷の抑制機構として機能していることを示しました。
 本研究では、複製がより早く進行するリーディング鎖側のLINE-1に優先的に親H3K9me3を転移して発現をいち早く抑制する予想外の細胞保護戦略が明らかになりました。このような抑制機構が存在することからもLINE-1の生物学的重要性が予想されます。一方、LINE-1が過剰な免疫応答を制御する正の機能も報告されていることから、生物はLINE-1を発現調節し活用しながら進化しているのかもしれません。
(文責:澁谷修一)

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