Organ aging signatures in the plasma proteome track health and disease.
Hamilton Se-Hwee Oh, et al.
Nature. 624(7990):164-172 (2023) . DOI: 10.1038/s41586-023-06802-1.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38057571/
ヒトや動物など研究対象に個体差があることは知られていますが、一生体内の臓器ごとの老化の違いについてはよく知られていません。臓器の老化を知るために直接臓器を調べることは倫理的にも難しく、侵襲性の低い血漿タンパク質ではどの臓器に由来しているのかを判断することは困難でした。今回、既知のタンパク質を含めGene Tissue Expression(GTEx)Atlasのデータを活用して血漿タンパク質の臓器特異性を示し、その臓器の老化と疾患の可能性を関連付けた研究をご紹介します。
GTExプロジェクトのバルク臓器RNA-seqデータから特定の臓器での発現が他の臓器に比べ4倍高いものを臓器特異的遺伝子とし、4,979個の血漿タンパク質をマッピングしています。それらのデータを用いて11の主な臓器と臓器特異的でないタンパク質、特異性に関係ないすべてのタンパク質に関する老化を機械学習し、独立した4つのコホートと1つのアルツハイマー病(AD)患者のコホートによるテストを行いました。その結果、極端に老化した臓器のタイプはそれぞれの臓器に大きな影響を与えることが知られる特定の疾患状態と関連していました。例えば腎臓では代謝性疾患(糖尿病、肥満、高コレステロール血症、高血圧)、心臓では心房細動や心筋梗塞、筋肉では歩行障害、脳では脳血管疾患、臓器特異的でない場合でもADと関連していました。高血圧の人の腎臓は同年齢のヒトよりも1歳高く、糖尿病の人は1.3歳高いというものです。このように全体の20%で1つの臓器の老化を強く促進し、1.7%は多臓器老化者であることを突き止めました。
また、あるコホートデータでは脳の年齢とADとの間に相関がある一方、一部のコホートにおいては再現性が得られませんでした。そこで著者らは脳老化の表現型にどのようなタンパク質が関与しているかを調べる新たなアルゴリズムを開発しました。その結果、コンプレキシンのようないくつかのタンパク質が年齢予測精度と認知機能低下との関連性を高めることを明らかにしました。この新たなモデルでは異なるコホートでも再現性が高く、AD患者ではADでない人に比べ脳の年齢が2歳高いことが明らかになりました。そして、この脳の老化は5年間の将来的認知症進行リスクの予測と有意に関連していました。pTau-181のような既存のADマーカーと同様にしかもそれらとは別に認知機能低下のリスクと相関を示したことから、新たな脳加齢モデルにおける臓器の年齢差は、他のバイオマーカーとは異なる脳老化に関する分子情報を提供することが示唆されました。また、その他の臓器モデルにおいても認知機能低下の初期変化を示すことが分かりました。これらは臓器特異的ではないものの動脈と脳で高発現する血管系のタンパク質であり、脳血管系の変化をいち早く表している可能性が高いことを示唆しました。
以上のように、臓器や組織の老化が特定の疾患に関与している可能性を強く示唆する結果を得ました。著者らは最後に本研究に残る課題について、機械学習に用いるデータの重要性とその慎重な評価の必要性について述べています。
本研究において、複数の異なるコホートのデータにおいて様々なアルゴリズムを用いた機械学習によりその解析を可能にし、これまで個々に取り扱われていた研究データが膨大な一つの試料として結果を導き出している点は注目に値します。またRNA-seqのデータから臓器特異的なタンパク質を紐づけし、血漿タンパク質から特定の臓器の老化を示し疾患予測を可能としている点も大変興味深いです。タンパク質の由来を特定しその変動を解析して将来的な疾患との関連性を予測する今回のような研究には多くの可能性が期待されます。膨大な試料とそこから得られる多大なデータに紐づいた解析は様々なアルゴリズムを駆使してそれらをまとめ上げた研究者の労力による成果であり、種々のタンパク質の機能と疾患への影響に関してその信憑性を高めるのは個々のターゲットにフォーカスしている多くの研究者の努力の結晶ではないでしょうか。今後、様々な研究が連携して老化と疾患との関連性が目に見えるようになり早期の治療につながることを願います。
(文責:板倉陽子)