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編集委員会からのお知らせ:2023年11月号海外文献紹介

TNIK is a conserved regulator of glucose and lipid metabolism in obesity.

T. C. Phung Pham, et al.
Science Advances.
9(32): eadf7119 (2023). DOI: 10.1126/sciadv.adf7119.

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37556547/

 肥満の患者数は、この数十年で世界的に激増しています。このことは、2型糖尿病や虚血性心疾患のリスクを持つ患者数の増加を意味しており、早急な対策が必要です。今回紹介するのは、キイロショウジョウバエとマウスを用いて糖代謝制御に関わる新規因子TNIK (Traf2- and NCK interacting protein kinase) の機能解析を行った論文です。
 近年、GWAS (genome-wide association studies) を用いた疾患原因遺伝子の探索が盛んに行われています。筆者らは、ショウジョウバエGWASライブラリーを用いて糖代謝に関わる遺伝子のスクリーニングを行い、TNIKの相同遺伝子であるmisshapen (msn) を同定しました。一方、糖代謝におけるTNIK/msnの機能は知られていないため、そのメカニズムについて解析を行いました。
 まず筆者らは、ショウジョウバエのmsn RNAi個体を用いてメタボローム解析等を行い、msnが高糖質食負荷時における脂質生合成に関わることを示しました。次に、全身性のTnikノックアウトマウス(Tnik KO)に通常食および高脂肪・高ショ糖食(HFHS: 45% fat, 10% sucrose)を与えて解析を行いました。その結果、雌雄ともにTnik KOではHFHS食でも太らないことがわかりました。また、糖負荷試験、インスリン負荷試験、ピルビン酸負荷試験等を行った結果、Tnik KOではインスリン感受性が高まっており、糖代謝機能が上昇していることがわかりました。
 次に筆者らは、筋肉における糖の取り込みに注目し、2-デオキシグルコースを用いた代謝速度測定を行いました。その結果、WTマウスではHFHS食で筋肉における糖の取り込み能が低下するところ、Tnik KOでは完全にレスキューできることがわかりました。次に、そのメカニズムについて生化学的に解析を行い、Tnik KOの筋肉ではAktシグナリングパスウェイに関わる因子とミトコンドリアの酸化的リン酸化に関わる因子の発現が上昇していることを明らかにしました。また筆者らは、Tnik KOでは筋肉と同様に白色脂肪組織においても、Aktシグナルを介した糖の取り込み能が上昇していることを明らかにしました。さらにTnik KOの脂肪組織では、脂質の取り込みや脂肪合成に関わる因子の発現が低下していました。それに加えて、Tnik KOではHFHS食による脂肪肝の発症も抑制されることを示しました。
 最後に筆者らは、ヒト2型糖尿病のデータベースであるT2D Knowledge Portal (T2DKP; https://t2d.hugeamp.org) に格納されているGWASデータセットを用いて、TNIKについて解析を行いました。その結果、TNIKの変異と血糖値、BMIなどの肥満に関連する形質に相関があることがわかりました。また、UK Biobankに格納されているデータを用いた解析においても同様の結果が得られました。以上の結果から筆者らは、TNIK/msnは進化的に保存された糖・脂質代謝制御因子であるとまとめています。
 この論文は、ハエで見つけた遺伝子の機能をマウスで詳細に解析し、ヒトへのトランスレーションの可能性まで示しており、ハエ屋としては(ハエ屋の自己満で終わらない)お手本のような論文だと感じました。今後、TNIKが肥満の創薬ターゲットになるのか注目したいところです。
(文責:赤木一考)

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