cGAS–STING drives ageing-related inflammation and neurodegeneration.
Muhammet F. Gulen, et al.
Nature. 620: 374-380 (2023). DOI: 10.1038/s41586-023-06373-1.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37532932/
老化した個体では全身性の慢性的炎症が誘導されていて、これらの炎症が様々な加齢性疾患の惹起や増悪化に関与していることが報告されてきました。しかしながら、近年まで、これらの加齢性の炎症を誘導している分子機序については特定が難航していましたが、そのひとつの誘導機序として、DNAを標的とした免疫感知を媒介するcGAS-STINGシグナル伝達経路が重要な役割を担っていることがわかってきました。著者らや他の研究グループから、cGAS-STING経路が細胞老化の制御において重要な役割を果たしていることが、in vitroで示されたことは記憶に新しいところです。また、ここ数年で、複数の研究グループからアルツハイマー病の神経変性疾患にcGAS-STING経路が関与している報告が続きましたが、本論文のように加齢性の神経変性へと焦点を当てて深堀した研究はありませんでした。
本論文ではまず、20ヶ月齢から22ヶ月齢の2ヶ月間、24ヶ月齢から26ヶ月齢の2ヶ月間に、老齢マウスにSTING経路を阻害するH-151試薬を投与しました。すると、炎症誘発性遺伝子やI型インターフェロン刺激遺伝子群の発現が、腎臓や肝臓、白色脂肪組織などの複数の組織で抑制されました。例えば、腎臓では、炎症細胞の蓄積が抑制され、加齢に伴う腎ろ過機能の低下が改善されました。行動解析実験では握力の低下が改善され、treadmill試験では身体的持久力も改善されていることがわかりました。Morris water maze試験では、海馬依存の空間記憶の低下が有意に抑制されていることが明らかになりました。同様に、associative memory in the contextual-fear-conditioning試験では、海馬依存の連想記憶が大幅に改善されている結果が得られました。故に著者らは、脳の老化に焦点を当てて、さらなる解析を行いました。
するとまず、対照群と比較して、STING阻害により海馬領域へのミクログリアの蓄積が抑制され、ニューロンの密度低下が抑制されていることが明らかになったのです。著者らは続いて、脳の海馬領域の老化には、ミクログリアが重要な役割を担っていることを明らかにしました。さらに、老化した脳のミクログリア内では、構造異常を引き起こしたミトコンドリアからDNAが細胞質中に漏出していて、それらのDNAを感知してcGAS-STING経路の活性化が誘導されて炎症が惹起されていることを示しました。
まだマウスを用いた実験段階ではありますが、遺伝性疾患ではない誰にでも平等に訪れる脳の老化進行を、cGAS-STING経路の阻害だけで緩和・遅延させることに成功した著者らの功績は大きいと思われます。
今後、加齢性の炎症を追う際にcGAS-STING経路の動向にも以前より注意を向けることで、加齢性疾患の新たな老化予防・治療戦略が本学会員から報告されることを願って、本論文の紹介をさせていただきました。
ご興味がありましたら、ご一読くだされば幸いです。
(文責:橋本理尋)