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編集委員会からのお知らせ:2023年7月号海外文献紹介

Cytotoxic CD4+ T cells eliminate senescent cells by targeting cytomegalovirus antigen.

Hasegawa T, et al.
Cell.
186: 1417-1431 (2023). DOI: 10.1016/j.cell.2023.02.033.

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37001502/

 老化細胞の蓄積は老化関連疾患の発症に関与していると考えられています。近年、老化細胞を除去するセノリシス研究が盛んに行われており、ダサチニブおよびケルセチン、フィセチンなどのセノリシス作用については既にご存知かと思います。一方、生理的な老化細胞の蓄積を防ぐメカニズムはあまりわかっていません。今回紹介する論文は、ヒトの皮膚でも生理的にセノリシスが起こっており、キラー活性を持つCD4陽性T細胞(CD4 CTL)が老化細胞で発現するヒトサイトメガロウイルス(HCMV)抗原を認識して老化細胞を除去することを明らかにしました。
 まず様々な年齢の皮膚バイオプシーサンプルからp16を指標として老化細胞数を調べました。若齢と比べて老齢皮膚では老化細胞が増加していましたが、興味深いことに50歳以上になると年齢と老化細胞数の比例相関が無くなります。このことから筆者らは老化組織におけるセノリシスの存在を予想しました。
 若齢と老齢皮膚の免疫細胞を比較してみると、老齢皮膚で特に細胞障害性CD4 CTLが増加していること、老化細胞数とCD4 CTL数に負の相関があることを見出しました。CD4 CTLを継代により老化誘導したヒト線維芽細胞と共培養すると老化細胞のみにアポトーシスを誘導する作用があり、CD4 CTLが生理的セノリシスのキープレイヤーであることを明らかにしています。
 さらにこのCD4 CTLが老化細胞のどの抗原を認識しているのかを調べました。老齢皮膚ではT細胞の標的として知られるクラスII MHC分子とともにHCMV由来の糖タンパク質の発現が高まっていることを発見しました。HCMVは幼少期に不顕性感染し、その後潜伏・持続感染により人体に終生寄生し人口集団に深く浸透しています。日本においても成人期での抗体保有率は60~90%とされています。CD4 CTLはウイルス糖タンパク質を発現する線維芽細胞を殺し、T細胞の抗原受容体がクラスII MHC-ウイルス糖タンパク質複合体と結合していることも確認しています。
 本論文により、複雑なヒトの免疫システムとウイルスの新たなインタラクトームの存在が明らかとなりました。加齢に伴う老化細胞の蓄積を防ぐためにヒトの免疫系がHCMVと共生関係を確立するように進化してきたことは非常に面白い知見です。HCMV抗原ワクチンが抗HCMV T細胞免疫を活性化する新たなセノリシス戦略としても応用できるかもしれません。
(文責:澁谷修一)

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