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編集委員会からのお知らせ:2023年3月号海外文献紹介

Organ-specific fuel rewiring in acute and chronic hypoxia redistributes glucose and fatty acid metabolism.

Ayush D. Midha, et al.
Cell metabolism.
35: 504-516 (2023).

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36889284/

 ロッキー山脈やアラスカ山脈など、海抜4,500m以上の高地に住む人々は、肥満や糖尿病、高コレステロール血症を含む代謝疾患に罹りにくいことが知られています。今回紹介する論文はその理由について研究し、慢性的な低酸素状態が糖質や脂質の燃焼を促すことを明らかにしました。さらに、そのメカニズムとして臓器特異的にエネルギー代謝が変化することを示しています。
 平地に暮らす私たちは、約21%の酸素を含む空気を吸って呼吸しています。一方で、海抜4,500m以上の高地では、空気に含まれる酸素は11%程度しかなく、そこに暮らす人々は慢性的な低酸素状態にあります。筆者らは、長期的な低酸素状態が個体レベルで代謝に与える影響を調べるため、マウスを用いて研究を行いました。具体的には、マウスを21%、11%、8%酸素環境で飼育し、行動、体温、血中のCO2量および血糖値の測定、PET/CTスキャンやメタボローム解析を用いた代謝測定を行いました。
 まず、低酸素条件(11%、8%酸素)初日では、マウスの自発行動量や血中CO2量(激しく呼吸すると低下)が著しく減少することがわかりました。しかし、この低下は3週間目までに通常条件(21%酸素)とほぼ同等まで回復しました。摂食量も同様で、低酸素開始後の数日は低下しましたが、低酸素期間が長くなるほど通常条件との差は観察されませんでした。一方で、体重や血糖値は低酸素開始後から低下し、その状態が持続することがわかりました。
 低酸素による代謝の持続的な変化のメカニズムを明らかにするため、筆者らはFDG(フルオロデオキシグルコース)-PET/CT検査を行い、臓器ごとの糖代謝を測定しました。その結果、教科書的に知られているように、低酸素によってほとんどの臓器でグルコース代謝が上昇することがわかりました。しかし、骨格筋と褐色脂肪細胞では、逆にグルコース代謝が低下していることを見出しました。次に筆者らは、安定同位体でラベルしたグルコースおよびパルミチン酸を用いたメタボローム解析によって、臓器ごとの代謝動態を測定しました。その結果、慢性的な低酸素状態では心臓でグルコース代謝が顕著に上昇し、脳、肝臓、腎臓では脂肪酸代謝が上昇することを明らかにしました。
 以上の結果をまとめると、慢性的な低酸素状態では心臓が積極的にグルコースを代謝してTCA回路を回し、脳、肝臓、腎臓では脂質の燃焼を高めていることがわかりました。さらに、褐色脂肪細胞では糖代謝を抑制して、グルコースの消費を抑えていることが示されました。
 この論文は、トレーサーを上手く使って臓器ごとの代謝変化(グルコースと脂肪酸のみですが)をきっちり調べた点が評価できます。他方で、分子メカニズムについては解析されていないので、今後の研究が期待されます。高地トレーニングならぬ高地療法が流行る日が来るのでしょうか。
(文責:赤木一考)

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