A NPAS4–NuA4 complex couples synaptic activity to DNA repair.
Elizabeth A. Pollina, et al.
Nature. 614: 732-741 (2023).
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36792830/
学習・記憶刺激などによって引き起こされる神経細胞の活動は、脳内神経回路のリモデリングに不可欠な現象です。一方で、神経細胞の過剰な興奮は、寿命短縮に繋がるなど、神経細胞の活動が老化を規定する重要な要素として、その制御機構が注目されています。
最近の研究により、神経活動が転写の際にDNAの二本鎖切断を引き起こすことが明らかとされており、分裂終了後の成熟した神経細胞では、ゲノム安定性という点でリスクの大きい変化であることから、DNA切断後の修復機構の存在が示唆されてきました 。しかしながら、長期間にわたる活動依存的なダメージに耐久できるような、ゲノム保護機構の獲得については、これまで解明されていませんでした。今回紹介する論文は、神経細胞の活動によって引き起こされるDNA切断に対するDNA修復機構を、緻密で膨大な実験により同定した画期的な内容となっています。
著者らは、活性化した神経細胞では、転写因子NPAS4がクロマチン修飾因子NuA4と複合体を形成していることを先ず見いだしまた。実際、NPAS4-NuA4複合体は、脳内の活動によって引き起こされるDNA切断の際に、遺伝子調節エレメントに結合し、さらにDNA修復因子を呼び寄せて損傷部位の修復を促進していました。対照的に、NPAS4-NuA4シグナルを障害した場合では、活動依存的な転写応答の異常、神経抑制機構の制御異常、さらにはゲノム不安定性を引き起こすなど、個体寿命の短縮に繋がる結果が得られています。
このように今回の論文では、神経細胞の活動とゲノム保存を直接結びつける神経細胞特異的な複合体を同定し、寿命制御に関与していることが明らかにされました。今後、NPAS4-NuA4複合体の機能破綻と発達障害、神経変性疾患、さらには老化進行との因果関係について解明されていくことが期待されます。
(文責:多田敬典)