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編集委員会からのお知らせ:2022年11月号海外文献紹介

A non-canonical vitamin K cycle is a potent ferroptosis suppressor.

Eikan Mishima, et al.
Nature. 608: 778-783 (2022).

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35922516/

 著者らは本論文の前報にて、フェロトーシス抑制タンパク質(FSP1; ferroptosis suppressor protein 1)がNADH-ユビキノン(CoQ10)酸化還元(NADH-ubiquinone reductase)活性を有し、脂質過酸化反応により生じる過酸化脂質(LOOH)を還元するGPX4(selenium-dependent glutathione peroxidase-4)に独立してはたらいて、生成するユビキノール(CoQ10-H2)の脂質ラジカル(ペルオキシラジカル(LOO·)、アルコキシラジカル(LO·))還元作用(FSP1-ubiquinone pathway)を介して、フェロトーシス(鉄または過酸化脂質誘導性の細胞死)を抑制すると報告している(Nature. 575: 693-698, 2019)。本論文は、FSP1がビタミンK(VK;フィロキノン・メナキノン)も基質として作用することを報告したものである。また脂溶性ビタミンのうち、ビタミンE(VE;αTOH)が脂質過酸化反応の抗酸化剤としての代表格であるが、今回の報告ではVKもその作用を十分に発揮することを精巧な生化学実験下で証明している。
 著者らは、まずVK(フィロキノン・メナキノン・メナジオン)のフェロトーシス抑制効果と細胞毒性について検証している。GPX4欠損あるいはGPX4阻害剤を投与しフェロトーシスを誘導した線維芽細胞・がん細胞、およびグルタミン酸毒性を誘導した神経細胞をもちいて、フェロトーシスを抑制することを確認している。この際、メナキノンが最も強い効果を示すこと、メナジオンはフェロトーシス抑制効果が低いこと、フェロトーシス非特異的な細胞死抑制効果や細胞毒性を生じることを報告し、側鎖の重要性を考察している。さらに、肝臓特異的GPX4欠損マウスおよび肝臓・腎臓虚血再灌流モデルでのメナキノンの組織細胞保護効果を明らかにしている。
 次に、フェロトーシスを抑制するVKの脂質ラジカル除去作用(直接的な還元効果)を検証するため、FSP1依存的な還元型ビタミンK(VKH2)生成とその効果を、リコンビナントFSP1、クマリン色素VK類似体を合成・精査し、さらにSTY-BODIPY(スチレン蛍光色素プローブ)をもちいたFENIX(fluorescent-enabled inhibited autoxidation)assayにより、精巧な生化学的実験を実施している。
グルタミン酸のカルボキシル化反応で補酵素となるVKは、VKOR(VK epoxide reductase)によるVKサイクル「VKH2→VKO(エポキシド)→VK(キノン型)→VKH2」下で作用する。しかし本論文では、このサイクルとは別に、FSP1がメナジオン以外で「VK→VKH2」のNADH依存的な酸化還元反応を触媒し、脂質ラジカルを還元除去するVKH2を生成することを証明している。この際、その作用はVEラジカル(αTO·)毒性にも効果を示すことが示唆されたと考察している。
 この他、VKのFSP1触媒作用を介したフェロトーシス抑制効果は、GPX4、VKORやNADH quinone oxidoreductase 1(NQO1)の触媒作用とは独立していることを、それらの欠損細胞株や阻害剤をもちいて明らかにしている。
 最後に、本論文では、FSP1触媒作用によりNADH依存的な酸化還元反応を介して産生されるVKH2の脂質ラジカル除去効果(抗酸化作用)が確証をもって示された。その効果がユビキノンを基質とする抗酸化作用よりも強く、VEラジカル毒性も還元することが示唆されたことは、脂質過酸化レドックス研究のさらなる躍進の布石となったことは言うまでもない。また、VK合成を担う腸内細菌叢(マイクロバイオーム)が抗酸化作用に如何に重要となっているかを示唆する成果ともなった。今後、フェロトーシスといった一細胞死を対象とした研究ばかりでなく、本論文の一部で示されていた免疫や炎症応答への効果についての詳細な分子機構を明らかにする発展的な研究を願ってやまない。
(文責:石井恭正)

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