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編集委員会からのお知らせ:2022年8月号海外文献紹介

Somatic mutations in single human cardiomyocytes reveal age-associated DNA damage and widespread oxidative genotoxicity.

Sangita Choudhury, et al.
Nature Aging. 2: 714-725 (2022).

https://www.nature.com/articles/s43587-022-00261-5

 加齢に伴い体細胞DNAの変異が蓄積することはよく言われています。しかし、実際にヒト心筋細胞においてそのような詳細な研究はなされていませんでした。本論文では、ヒト心筋細胞におけるシングルセル全ゲノムシーケンシング(WGS)による体細胞一塩基変異(sSNVs)の特徴が報告されました。今回、心臓が生涯働き続ける中でどのような変化が生じ、どのように機能を維持しているかを知る手掛かりとなる研究をご紹介します。
 実験は、4歳以下3例・30代から60代の6例・70代から80代の3例から56個の単一心筋細胞を用いて、それぞれの核の変異を解析しました。心臓における核の多倍体化は新生児のような早い段階から生じていました。左室の心筋細胞核を単離し、DNAを増幅してWGSを行った結果、2倍体化・4倍体化どちらの心筋細胞でも加齢に伴いsSNVsが有意に増加していましたが、ゲノムサイズの違いによる有意差はありませんでした。また、加齢に伴うsSNVsの蓄積について複数種の細胞を調べたところ、変異のプロセスが細胞種により異なる可能性が示唆されました。そこで、心筋細胞、神経細胞、肝細胞、リンパ球を比較したシグネチャー解析によりその要因を調べたところ、メチル化シトシンからチミンへの脱アミノ化の異常な修復を反映するもの、酸化的DNA損傷の修復不全に関与するもの、DNAミスマッチ修復(MMR)の欠損に関与するものなど、加齢に伴い増加する3つの要因を同定しました。なかでも、心筋細胞では加齢に伴うMMRの寄与がほかの細胞より飛躍的に増加し、MMRの減少がヌクレオチド除去修復や塩基除去修復よりも影響をより強く受けたことから、心筋細胞特異的なsSNVsの蓄積はMMRに関連したものだと示唆されました。2倍体および4倍体心筋細胞における遺伝子ノックアウト(KO)の蓄積を比較した結果では、心筋細胞の大部分で有害な変異を有することが示される一方、4倍体の心筋細胞において遺伝子KOの確率が有意に低いことが示されました。このことは、4倍体心筋細胞は、加齢に伴う変異による遺伝子機能の喪失を回避するのに有効であること強く示唆していました。
 本論文において、心筋細胞や肝細胞のような代謝の活発な臓器では変異から自身を守るために多倍体化している可能性が考えられる一方、心筋細胞ではMMR経路欠損の寄与が大きいなど、変異原性プロセスの特異性を示していました。多倍体化は哺乳類の心筋細胞の特徴であることから、著者らは心筋細胞の多倍体化は急激な変異の蓄積による悪影響を軽減するメカニズムになりうると述べています。最後に、本研究は加齢心筋細胞におけるゲノム状況と変異蓄積のメカニズムをより深く理解するための基礎となるものであり、加齢に伴う心筋細胞の機能不全を軽減するための新しい治療法の開発に役立つと締めくくっています。
 このように、加齢に伴い生じる遺伝子の変異は各細胞共通した要因を示す一方で、臓器特異性が存在し、その機能と密接に関与することを示唆しています。一つ一つの細胞の変異を知ることは、大変貴重な研究です。また、心筋細胞が多倍体化によりその機能を維持するというシステムは、細胞ごとの“生きる”ことへの工夫と努力が私たち個体を生かしているのだと、個人的には感慨深い内容でした。
(文責:板倉陽子)

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