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編集委員会からのお知らせ:2022年6月号海外文献紹介

Brain charts for the human lifespan.

R. A. I. Bethlehem, et al.
Nature
. 604: 525-533 (2022).

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35388223/

 身長や体重など、身体の発達の度合いを評価する指標として広く使われているのが「成長曲線」です。成長曲線を記録することは、病気の早期発見や治療の選択肢として非常に重要な指標です。しかし、これまで、脳の正常な成長や加齢に伴う変化を数値化した「脳の成長曲線」は存在しませんでした。
 今回紹介する論文では、過去数十年間に得られたMRI画像を用いて「ブレインチャート」を作成し、生涯における脳の構造の変化とその変化率を定量化し、脳の健康状態の予測や脳疾患の早期発見の可能性を示しています。また、一般的に成長曲線は出生直後から思春期頃までを対象としていますが、本論文で作成した「ブレインチャート」は、100以上の研究から得られた受胎後115日から100歳までのヒト101,457人のMRI画像123,984枚を用いており、すべての年齢層が網羅されています。
 本論文では、作成した「ブレインチャート」に基づいて、受胎後17週以前から3歳までに脳の大きさが約70%増加するなど、この時期が脳成熟の初期成長における重要な時期であることを明らかにしました。さらに、安定性の高い縦断的な測定により、軽度認知障害からアルツハイマー病への診断移行に伴う脳の変化を評価することができ、将来的に進行性神経変性疾患の定量的な予測・診断する上で、臨床的に有用であることが示されました。このように、「ブレインチャート」を用いて脳の変化を予測し、脳疾患の早期発見につながる可能性が示されるなど、今後、データベースのさらなる発展が期待されます。また、このような新しい評価指標の確立は、多くの脳疾患の早期発見につながる一方で、新しい評価指標により生じるデメリットを防ぐために、運用体制の構築も必要であると感じました。
(文責:多田敬典)

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