Hyperexcitable arousal circuits drive sleep instability during aging.
「過興奮性の覚醒回路が加齢に伴う睡眠の不安定にさせる」
Shi-Bin Li, et al.
Science. 375: eabh3021 (2022).
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35201886/
加齢に伴い増える困りごとのひとつに睡眠の問題が挙げられます。睡眠は、体内時計に加えて、睡眠・覚醒を司るしくみがうまく協調して調節されます。今月は睡眠の加齢変化のしくみの一端として、覚醒を司る神経回路の過興奮が、加齢に伴い睡眠が断片化することに関与することを示した論文を紹介します。
著者らは、覚醒維持に重要な物質のひとつである「オレキシン(ヒポクレチン)」に着目して研究を行いました。若齢マウス(3-5か月齢)と比べて老齢マウス(18-22か月齢)では、覚醒やREM睡眠の発生回数が多いことに加えて、視床下部のオレキシンニューロンの数が約38%少ないことを示しました。一方、オレキシンニューロンの機能としては、老齢マウスにおいて明期(非活動期)にニューロンの活動がより頻繁に見られ、睡眠の持続時間と負の相関を認めました。
残存するオレキシンニューロンが老齢マウスで過興奮を起こすしくみとして、著者らは、(1)オレキシンニューロンの静止膜電位がより脱分極状態にあること、(2)刺激に対するオレキシンニューロンの応答性が高いこと、(3)電位依存性K+チャネル(KCNQ2)の数・機能ともに低下していること、を報告しました。さらに、KCNQ2・3の刺激薬(flupirtine)を明期の初めに老齢マウスに投与すると、覚醒回数が減少するとともにnon-REM睡眠の持続時間が延長することが示されました。
本論文では、覚醒系のひとつであるオレキシンに着目して研究が展開されていますが、睡眠を促すしくみは加齢でどのような影響を受けるのか、それらの相互作用についてさらに興味が沸いた次第です。
(文責:渡辺信博)