お知らせINFORMATION

  • TOP
  • お知らせ
  • 編集委員会からのお知らせ:2021年9月号海外文献紹介

編集委員会からのお知らせ:2021年9月号海外文献紹介

Decreased pH in the aging brain and Alzheimer’s disease.
「老化脳とアルツハイマー病におけるpHの低下」

Yann Decker, et al.
Neurobiol Aging. 101: 40-49 (2021).

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33578193/

 アルツハイマー病(AD)の危険因子のひとつが「加齢」であることはよく知られています。今月は加齢により脳のpHが低下することがアミロイドβ(Aβ)の蓄積や脳内のミクログリア活性などに影響することを報告した論文を紹介させていただきます。
 同論文では、ブレインバンクに保存されているヒトの試料およびマウスを用いて実験を行いました。たくさんのヒト試料を用いた実験では、非AD健常者(356例)の脳組織のpHが年齢依存性(20~100歳)に低下すること、AD患者の脳組織(609例)や脳脊髄液(613例)のpHは、aged-matched 非ADよりも低いことが示されました。
 マウスを用いた研究では、野生型マウスにおいても上記のヒトの結果と同様に、月齢依存性(1~19ヶ月齢)に脳のpHが低下することが示されました。そこで、4ヶ月齢のADモデルマウス(APP-PS1)の片側の脳実質内に低pH(pH1.8)の人工脳脊髄液を28日間持続的に注入したところ、対照マウス(pH7.3の人工脳脊髄液注入)よりも海馬でのAβ蓄積が40%多いことが示されました。さらにin vitroの実験では、低pH(pH7.1)の培地中では、対照の培地(pH7.4)と比べて、Aβやサイトカイン刺激によるミクログリアの活性化が弱まること、Aβを取り込むミクログリアがほとんど観察されなくなること、Aβの線維化(蓄積)が促進されることが示されました。
 これらの結果より、老化に伴う脳pHの低下は、Aβ蓄積を促進したり脳内の免疫応答に影響したりすることで、ADの病態形成に寄与することが示唆されました。本論文の著者らは脳血流低下が脳pH低下の一因と考察しております。本論文の結果は、脳血流低下がADの危険因子のひとつであると報告した最近のメタアナリシスの報告(Yu et al. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2020; 91(11): 1201-1209)を裏付ける基礎データと思われます。
(文責:渡辺信博)

PDF

バックナンバー