Powered by Google

  

学会誌

>>BackNumber のTopへ

BackNumber>>2005年




2005年11月
29巻4号



pdf 全体
3783KB
第27回日本基礎老化学会シンポジウム (pdf 383KB)
プログラム
抄録

総説:アルツハイマー病の治療-Aβワクチン療法
原英夫、田平武 (pdf 375KB)
総説:シナプス分子と精神・神経疾患
鈴木龍雄 (pdf 681KB)
研究報告:SAMマウスにおける脳の老化・変性パターンとユビキチン・プロテアソーム系の関与
島田厚良、河村則子、慶野裕美、佐藤衛、千葉陽一、齊藤優子、細川昌則 (pdf 362KB)
研究報告:細胞老化および形質転換におけるミトコンドリアから発生する活性酸素の影響―線虫から哺乳類へ―
石井恭正、安田佳代、赤塚明、樋野興夫、Philip S.Hartman、石井直明 (pdf 835KB)
トピックス:老化のプロテオミクス―プロテオーム解析の切り口から見えてくるもの―
戸田年総 (pdf 229KB)
学会報告:第18回国際老化学会参加記(リオデジャネイロ、ブラジル、2005年6月26日~30日)
下川功 (pdf 90KB)
学会報告:11th CongressoftheInternationalAssociation ofBiomedicalGerontology(IABG)参加記
日比陽子 (pdf 87KB)
人物紹介:名誉会員、Byung-PalYu先生のプロフィール
下川功 (pdf 79KB)
施設紹介:信州大学・大学院・医学研究科加齢適応医科学系専攻(独立専攻)の紹介
谷口俊一郎 (pdf 218KB)
お知らせ:第29回日本基礎老化学会開催のご案内  (pdf 43KB)

アルツハイマー病の治療-Aβワクチン療法

原 英夫1)、田平 武2)
国立長寿医療センター研究所
1) 血管性痴呆研究部室長 2) 所長

要約
アルツハイマー病の発症機序として、アミロイドカスケード仮説に加え新たにシナプスA 仮説が 提唱されている。アルツハイマー病に対するワクチン療法は、能動免疫、受動免疫および粘膜免 疫を用いたワクチンの3種類が報告されており、それぞれの方法と作用機序について解説した。 さらに最近のトピックスを紹介し、今後のワクチン療法の展望を概説した。

Key words: アミロイドベータ、抗体、ワクチン、ミクログリア

シナプス分子と精神・神経疾患

鈴木 龍雄
信州大学大学院医学研究科・加齢適応医科学系独立専攻・分子細胞学部門・神経可塑性学分野

要約
高次の脳機能が発揮されるためには、多数の分子の関与が必須である。たとえば、シナプス部 では千のオーダーの分子がシナプス可塑性の発現に関わっている。これらの分子の一つでも機能 を停止すると、脳の高次機能に異常が生ずる可能性がある。つまり精神活動に異常が生じたり、 脳・神経系の病気になったりする。多数あるシナプスに存在するタンパク質種の中で同定されて いるものは半数にも満たないと見積もられてもいる。シナプス伝達の制御や可塑性、また、シナ プス機能に起因する脳や精神の疾患の理解する上で、これら未知の分子を発見し、機能を明らか にすることが大きな役割を果たすと考えられる。著者らは数年前から、新規のシナプス後部タン パク質およびそれらをコードする遺伝子を発見・同定するプロジェクトを行っている。本総説で は、最近までの著者らのプロジェクトの成果を紹介したい。

Key words: シナプス可塑性、PSD、NIDD、BAALC、CaMKI

SAMマウスにおける脳の老化・変性パターンとユビキチン・プロテアソーム系の関与

島田厚良、河村則子、慶野裕美、佐藤 衛、千葉陽一、齊藤優子、細川昌則
愛知県心身障害者コロニー 発達障害研究所 病理学部

要約
老化促進モデルマウスの1系統であるSAMP10系は、加齢にともない、学習・記憶障害を呈し、大脳皮質や辺 縁系に萎縮が見られることから、脳の老化・変性の自然発症モデル動物と考えられる。これまでに、SAMP10マ ウスの加齢に伴う脳萎縮は、前頭部大脳皮質・嗅球・前嗅核・嗅内野に最も顕著であること、前頭部以外の大脳 皮質・側坐核・中隔・扁桃体・梨状皮質・線条体にも萎縮が生じること、萎縮の著明な前頭部皮質では加齢に 伴ってニューロンが減少し、残存ニューロンでは細胞体面積が減少することを明らかにしてきた[1,2]。これに 対し、正常老化コントロールとして用いているSAMR1マウスでは、寿命末期まで学習・記憶能は比較的保たれ、 頭頂皮質の比較的軽度な萎縮を除いて、ほとんどの脳領域で加齢による萎縮は生じないこと、また、ニューロン の脱落や細胞体萎縮はおこらないことがわかっている[1,2]。しかしながら、古典的組織染色法を用いた病理学 的検索によっては、SAMP10における神経細胞の変性像をとらえることは難しく、ヒトの老化脳やアルツハイ マー病で見られる老人斑や神経原線維変化といった特徴的な像が得られなかった。そこで、我々はTUNEL法、 ゴルジ法などの特殊染色法を用いた詳細な形態学的検討から、SAMP10におけるニューロンの細胞レベルでの変 性パターンを明らかにした。さらに、現在進行中の研究からは、その変性メカニズムの一端として、ユビキチン・ プロテアソーム系が関与する可能性を示唆するデータが出つつあるので、その経過をあわせて報告したい。

細胞老化および形質転換におけるミトコンドリアから発生する活性酸素の影響 ―線虫から哺乳類へ―

石井恭正1)、安田佳代1)、赤塚明2)、樋野興夫3)、Philip S. Hartman4)、石井直明1)
1) 東海大学・医学部・基礎医学系・分子生命科学
2) 東海大学・医学部・教育・研究支援センター
3)順天堂大学・医学部・病理学(II)
4) Department of Biology, Texas Christian Universit

要約
正常細胞における細胞内酸化ストレスは、その大部分がミトコンドリアから発生する活性酸素に 起因する。この活性酸素は、ミトコンドリア電子伝達系から漏出した電子が近傍の酸素と反応す ることで生じる。我々の研究室で単離された線虫C. elegansのmev-1変異体は、ミトコンドリア電 子伝達系複合体IIのチトクロームb大サブユニット(CYT-1)にアミノ酸点変異が生じ、ミトコン ドリアから過剰の活性酸素を発生することが明らかにされた。そこで、我々はこれらの現象を哺 乳動物において検証するために、cyt-1遺伝子の相同遺伝子であるマウスSDHC遺伝子にmev-1変異 体と同様のアミノ酸点変異(SDHC V69E)を生じる変異遺伝子を構築し、これを導入したマウ スNIH3T3細胞株(SDHC E69)を樹立した。このSDHC E69細胞株は、ミトコンドリアから過 剰の活性酸素を発生することで、細胞増殖能が低下し、過剰なアポトーシスを誘導することが確 認された。さらに、生存を続ける細胞では高頻度に良性腫瘍の特性を示す癌細胞へと形質転換す ることが明らかにされた。以上の結果から、電子伝達系複合体IIからの電子漏出が起因となり過 剰発生した活性酸素は、細胞老化の原因となる細胞増殖能の低下や老年性疾患や早老化の原因と なる過剰なアポトーシスを誘導し、さらには発癌を導く細胞の形質転換にも深く関与していることを明らかにした。

キーワード:superoxide anion、mitochondria、oxidative stress、aging、tumor


2005年9月
29巻3号



pdf 全体
4586KB
 
総説:ミトコンドリアと老化  田中雅嗣 (pdf 1151KB)
総説:記憶の老化、脳の老化の分子遺伝学  齊藤実 (pdf 970KB)
研究報告:
長期的な自発性運動がラット歩行中の海馬局所血流と細胞外アセチルコリン放出の増加反応に及ぼす影響
内田さえ、小島成実、野本恵美、野本茂樹、金井千恵子、堀田晴美 (pdf 403KB)
研究報告:
カロリー制限・GH-IGF-1抑制ラットのグルコース代謝:Adiponectin-AMPK系の解析
林洋子、山座治義、黨和夫、遠山啓亮、小松利光、千葉卓哉、樋上賀一、下川功 (pdf 385KB)
トピックス:
心筋細胞にもテロメラーゼが重要な役割-老化のプログラム説と傷害説は一連過程?-
三井洋司 (pdf 237KB)
随筆:
基礎老化研究あれこれ(5) メディアが報じたフリーラジカル否定説 白澤卓二 (pdf 260KB)
学会報告:
34th AnnualMeeting oftheAmerican Aging Association参加記 清水孝彦 (pdf 157KB)
学会報告:
ホルミシスと老化介入
-第1回国際ホルミシス会議InternationalConferenceon "Hormesis:Implicationsfor
Toxicology,Medicineand RiskAssessment"参加記- 後藤佐多良 (pdf 221KB)
学会報告: 第28回日本基礎老化学会を終えて 丸山直記 (pdf 72KB)
書評:斉藤一郎著「不老は口から」 大竹登志子 (pdf 50KB)
附:基礎老化学会サーキュラー第68号

ミトコンドリアと老化

田中 雅嗣
東京都老人総合研究所 健康長寿ゲノム探索 参事研究員

要約
ミトコンドリアと老化の関わりは、最近ホットな研究テーマとなっている。著者らは1980年代に ミトコンドリアDNA変異の体細胞における蓄積が老化に関与しているという仮説を提唱し、根拠 となる実験事実を収集した。加齢に伴ってミトコンドリア機能の低下することは多くの実験から 確認されたが、ミトコンドリア機能の低下が老化の結果であるのか原因であるのかについては不 明な点が残されている。また、ミトコンドリア機能の低下が、核ゲノムの発現レベルの変化に基 づくのか、ミトコンドリアゲノムの変異蓄積に基づくものであるのかについてもまだまだ論争が 続いている。本総説では、ミトコンドリアと老化に関する過去の研究を振り返ったあと、最近の ミトコンドリアゲノム研究を通覧し、著者らが進めているミトコンドリアゲノム多型に関する大 規模関連解析などについて紹介したい。

Key words: aging, longevity, mitochondrial single nucleotide polymorphism, obesity, metabolic syndrome

脳の老化の分子遺伝学

齊藤 実
東京都神経科学総合研究所神経機能分子治療部門

要約
加齢による学習・記憶力の低下(加齢性記憶障害, Age-related Memory Impairment: AMI) はア ルツハイマー病や脳血管障害などの病変を示さない健常老人でも起こる脳の老化の重要な表現型 である。脳の老化に伴う様々な生理学的、解剖学的変化とAMIとの関連が調べられているが、分 子遺伝子レベルでのメカニズムを探るための遺伝学的解析はこれまでモデル動物の寿命が障害と なり進展してこなかった。ショウジョウバエは寿命が約一ヶ月と短く、ヒトと共通の学習記憶の メカニズムを持っている。獲得直後の不安定な記憶情報は色々な生化学的プロセスを経て安定な 記憶情報へと統合されるが、その過程で働く遺伝子産物がショウジョウバエによる遺伝学的解析 から同定されている。AMIは記憶情報の統合に至る過程全般の非特異的障害を反映したものと捉 えられてきた。しかし、ショウジョウバエによる遺伝学的解析から、amnesiacという神経ペプチ ドをコードする遺伝子が関与するプロセスが極めて特異的に低下することがAMIの原因であるこ とが分かり、AMIの遺伝学的解析が新たな研究領域として始まった。

長期的な自発性運動がラット歩行中の海馬局所血流と細胞外アセチルコリン放出の増加反応に及ぼす影響

内田さえ,小島成実,野本恵美,野本茂樹,金井千恵子,堀田晴美
東京都老人総合研究所・運動自律機能相関研究グループ

要約
我々の研究グループではこれまでに、ラットをトレッドミルで歩行させると、歩行中に脳内コリ ン作動性神経が働いて海馬局所血流が増加することを報告した。本研究では長期的な自発性運動 でコリン作動性神経の活性化を繰り返すことにより、コリン作動性血管拡張系の働きが亢進する 可能性を検討した。約4ヶ月にわたり自発運動可能な回転ケージ(運動群)と、通常ケージ(非運 動群)で飼育したラットを用いて、歩行中の海馬局所血流増加反応を比較した。その結果、歩行 中の海馬血流増加反応が非運動群に比べて運動群で大きい傾向が認められた。更に、運動群各 ラットにおける歩行中の海馬血流増加反応の大きさと自発性運動量(一日平均走行距離)との間 に有意な正の相関が認められた。一方、歩行中の海馬細胞外アセチルコリン(ACh)放出増加反 応の大きさは2群間で差はなく、運動群においては自発性運動量との間の相関も認められなかった。 以上の結果から、長期的運動はAChに対する海馬血管拡張反応の感受性亢進によって、脳内コリ ン作動性海馬血管拡張系の機能を亢進させる可能性が示唆された。

キーワード:Long-term voluntary exercise, Hippocampal blood flow, Walking, Cholinergic vasodilation, Rat

カロリー制限・GH-IGF-1抑制ラットのグルコース代謝: Adiponectin-AMPK系の解析

林 洋子,山座治義,黨 和夫,遠山啓亮,小松利光,千葉卓哉,樋上賀一,下川 功
長崎大学大学院医歯薬学総合研究科
医療科学専攻 病態解析・制御学講座 内臓機能病態病理学

要約
【背景・目的】GH-IGF-1系抑制(tg/-)ラットの寿命はカロリー制限(CR)ラットと類似して寿命延 長を示す。対照群と比較してこれら2つのモデル動物では,耐糖能試験において血中インスリンが 上昇しないにもかかわらず正常な耐糖能を示した。また,対照群でみられるグルコース投与によ るインスリン受容体リン酸化の増加が消失する傾向が認められた。これらのラットではインスリ ン非依存性のメカニズムが関与していることが考えられる。その候補としてAdiponectin,AMPK に注目し,検索を行った。【方法】(tg/-)ラットおよびCRラットにグルコースを腹腔内投与し,15 分後に肝組織と骨格筋を採取した。血中AdiponectinをELISAで測定し,ウエスタンブロット法に よりAMPKのリン酸化を測定した。【結果】血中Adiponectinは対照群に対し,(tg/-)ラット,CR ラットで有意に高かった。しかし肝,骨格筋におけるAMPKのリン酸化は(tg/-)ラット,CRラット では増加がみられなかった。【考察】CRラットと(tg/-)ラットでAdiponectinが有意に高かった ことは,これらの動物のグルコース代謝においてAdiponectinが役割を有していることを支持して いる。一方,AMPKのリン酸化で有意差がみられなかったことは,予想に反して,急性のグルコー ス取込みにおいてはAMPKの関与は少ないと考えられ,他の経路の存在が示唆された。

キーワード:Calorie restriction, GH-IGF-1 axis, adiponectin, AMPK


2005年5月
29巻2号



pdf 全体
4904KB
第一部:日本基礎老化学会第28回大会 (pdf 882KB)
大会案内及びプログラム
発表抄録

第二部:総説 (pdf 1288KB)
老化脳における神経再生
森望、MahendraS.Rao、大神和子

随筆:基礎老化研究あれこれ(4)映画と老化研究
白澤卓二 (pdf 176KB)

附:基礎老化学会サーキュラー第67号

老化脳における神経再生

森望(1)、Mahendra S. Rao(2)、大神和子(1)
1) 長崎大学大学院医歯薬学総合研究科・発生分化機能再建学講座・形態制御解析学(解剖学第一)
2) Laboratory of Neurosciences, National Institute on Agin

要約
神経の再生は発達脳に限った現象ではなく、成熟脳でも老化脳でも起こる。その源は神経幹細胞 の存在にある。しかし、成体脳での幹細胞は限られた領域にのみ存在しており、嗅球、側脳室周辺 部、海馬歯状回の顆粒細胞層に局在する。これらの神経幹細胞は新しいニューロンを産生できる ものの、側脳室や嗅球や海馬から遠い部位の神経の修復には簡単には寄与しない。ここでは、胎 児の神経幹細胞と成体の神経幹細胞との違い、成体脳においてこれらの細胞から新たな神経の再 生を増強する要因についてまとめる。また、内在性の神経前駆細胞による神経再生の補完性を高 めるため成体脳の障害部位に神経幹細胞を移植して機能回復を狙う事例についても紹介する。成 体脳においても未分化状態の神経幹細胞を移植することによって、傷害脳、疾患脳の機能回復を 助けることが可能である。今後、成体脳における神経再生の制御要因を解明し、老化脳保護へむ けた新たな戦略を編み出すことが重要である。


2005年2月
29巻1号



pdf 全体
4794KB
総説:冬眠研究の最前線
関島恒夫、大津敬、近藤宣昭 (pdf 554KB)
総説:酵母を使った老化研究―rDNA仮説を中心に―
小林武彦 (pdf 545KB)
総説:加齢速度と環境因子(温度,食餌,冬眠)-誕生から死までの生物時間の流れ-
高橋良哉 (pdf 555KB)
研究報告: D-アスパラギン酸含有タンパク質の生成機構とその分解酵素による抗老化機構について
木野内忠稔、藤井紀子、香川靖雄、浜本敏郎 (pdf 556KB)
研究報告: 長寿ラットにおけるグルコースーインスリン機構;カロリー制限とGH-IGF-1系抑制の影響
山座治義、小松利光、樋上賀一、下川功 (pdf 444KB)
研究報告: 酸化ストレスによるフォークヘッド型転写因子FOXOファミリーの活性制御
日比(古川) 陽子、小林洋介、本山昇 (pdf 778KB)
随筆:基礎老化研究あれこれ(3)芸術と老化研究
白澤卓二 (pdf 161KB)
学会報告: Cold Spring HarborLaboratoryMolecularGeneticsofAging
石井直明 (pdf 270KB)
施設紹介: 長崎大学大学院医歯薬学総合研究科
下川功 (pdf 182KB)
書評:NHKスペシャル驚異の小宇宙人体III 遺伝子4.命を刻む時計の秘密―老化と死の設計図―
森政之 (pdf 71KB)
おしらせ:マキノダン傘寿記念シンポジウムのご案内 (pdf 123KB)

附:基礎老化学会サーキュラー第66号

冬眠研究の最前線

関島恒夫(1)、大津敬(2)、近藤宣昭(3)
(1)新潟大学大学院自然科学研究科環境共生科学専攻
(2)東京大学医科学研究所基礎医学講座
(3)三菱化学生命科学研究所

要約
冬眠の魅力は、5℃ 以下まで体温を低下させることができる低体温耐性と、そのような極限の体温 低下にも関わらず、細胞・組織レベルで異常をきたさず、生体が正常に機能を果たしている点に ある。チョウセンシマリスから発見された新規の冬眠特異的タンパク質(Hibernation-specific proteins)に関する研究は、現象の把握に終始してきた冬眠研究を、統合的な生理的調節システム として理解する道筋を提供した。その結果、冬眠と低体温は必ずしも同義ではなく、チョウセン シマリスでは体温低下を引き起こすための事前の生理的調節が、概年リズム支配のもと行われて いることが明らかとなった。また、冬眠動物は一般的に長寿の傾向にあり、従来、それは体温低下 による代謝抑制に起因すると考えられてきたが、HPの研究から寿命と体内リズムに重要な関係が あることが見えてきた。冬眠研究は、体温調節、エネルギー貯蔵、睡眠といったメカニズムの理解 に留まらず、低体温療法、組織防御、延命など臨床面への応用が大きく期待される。

酵母を使った老化研究―rDNA仮説を中心に―

小林 武彦
基礎生物学研究所

要約
出芽酵母は出芽で殖える単細胞生物で、古くからその発酵能力がかわれ、酒類を始め、パン、 しょうゆ等々、我々の食生活に欠かせない生き物の一つである。研究面においても遺伝学および 分子生物学的解析の容易さから、様々な分野に利用されてきた。老化研究においては、通常単細 胞生物は生育条件さえよければ無限に分裂し続ける種が多い中、出芽酵母はその名の通り、母細 胞から生じる小さな芽が成長して娘細胞となる不等分裂を行い、一つの母細胞が生み出すことの できる芽の数には限りがあるため、これが酵母の寿命と捉えられ、老化現象を示す最もシンプル なモデル生物として注目されてきた。特に近年、老化速度を左右するいくつかの遺伝子が同定さ れ、分子レベルでの老化機構解明の糸口が、まさに見え始めてきたところである。ここでは酵母 を用いた老化研究の現状と、ヒト老化研究への応用の可能性について、老化の「rDNA仮説」を中心に解説する。

加齢速度と環境因子(温度,食餌,冬眠)-誕生から死までの生物時間の流れ-

高橋良哉
東邦大学 薬学部 生化学教室

要約
動物の寿命は、遺伝要因に加え環境要因によっても大きく変化する。動物の誕生-成長-成熟 -老化-死という一連の過程に対し環境要因は、どのように作用しているのだろうか。 キイロショウジョウバエを生涯、高温で飼育すると寿命は短縮するが、その影響は若齢期、中年 期あるいは老齢期のいずれの時期に短期間実施しても認められる。また、寿命延長効果がある食 餌制限を若齢期の限られた期間実施した場合にも寿命延長効果が認められる。興味深いことに、 これらの寿命に与える影響は生涯を通していずれの時期でもほぼ一定である。動物の誕生から死 までの一連の過程は、環境温度の影響を受けて発生速度が変化する変温動物などの卵(胚)発生 過程とよく似ている。動物には発生後も内外環境変化に影響されつつ速度を変えながら一方向性 に限られた生物時間を刻む機構が存在すると考えられる。

キーワード:aging rate, biological time, environmental factor, temperature, dietary restriction, hibernatio

D-アスパラギン酸含有タンパク質の生成機構とその分解酵素による抗老化機構について

木野内忠稔1.2、藤井紀子1、香川靖雄2.3、浜本敏郎2
1.京都大学原子炉実験所・放射線生命医学研究本部・放射線生命科学研究部門・放射線機能生化学分野
2.自治医科大学・生化学講座・機能生化学部門
3.女子栄養大学・医化学教室

要約
従来、哺乳類の構成アミノ酸は、すべてL型だけであると考えられていたが、加齢と共にラセミ 化したアスパラギン酸残基(D-Asp)を含むタンパク質が、体内で生じることが明らかになった。 D-Asp残基は、白内障やアルツハイマー病など、加齢とともに罹患率が上昇する疾病の原因タンパ ク質で発見されており、その因果関係が注目されている。我々は、こうした有害なD-Asp含有タン パク質の動態を解明するため、水晶体タンパク質のαA-クリスタリンにおけるラセミ化の生成機 構を解析し、さらにD-Asp含有タンパク質に対する特異的な分解酵素:D-Aspartyl Endopeptidase (DAEP)を発見し、そのキャラクタライズを行った。その結果、紫外線被曝のような蓄積性のス トレスにより、部位特異的にAsp残基のラセミ化が生じること明らかになり、DAEPはそれらを排 除して恒常性を維持する抗老化機構であると考えられた。

キーワード:Racemization, D-Aspartic acid, D-Amino acid, Catarcts, Alzheimer's diseas

長寿ラットにおけるグルコースーインスリン機構;カロリー制限とGH-IGF-1系抑制の影響

山座治義、小松利光、樋上賀一、下川 功
長崎大学大学院医歯薬学総合研究科
医療科学専攻病態解析・制御学講座内臓機能病態病理学

要約
インスリンシグナルの減弱は老化遅延および寿命延長を示す。我々は、長寿を示すカロリー制限 および成長ホルモン(GH)-インスリン様成長因子(IGF)-1系抑制ラットでのインスリンシグナル伝 達系を検索した。耐糖能試験で対照群ではインスリン濃度が上昇したが、長寿ラットではインス リン濃度の上昇を伴わない正常な耐糖能を示した。肝臓と骨格筋で、対照群ではグルコース刺激 によりインスリン受容体のリン酸化が上昇したが、長寿ラットでは変化がなかった。肝臓での遺 伝子発現について、インスリン非依存性の制御を受けるGlucose transporter 2 (Glut2)がカロ リー制限では上昇し、GH-IGF-1系抑制では減少していた。インスリン受容体やPI3-K、Akt2は長 寿ラット間で異なる制御を受けていた。以上の結果より、カロリー制限とGH-IGF-1系抑制ではグ ルコースの代謝において、インスリン非依存性の機構が活性化していること、もしくは特異的に インスリンシグナル伝達系を制御していることが示された。

キーワード:Calorie restriction, GH-IGF-1 axis, insulin signal pathway, glucose homeostasi

酸化ストレスによるフォークヘッド型転写因子FOXOファミリーの活性制御

日比(古川)陽子、小林洋介、本山昇
国立長寿医療センター研究所 老年病研究部 早期老化症研究室

要約
FOXOファミリー転写因子(FOXO1, FOXO3, FOXO4)は線虫の長寿関連遺伝子DAF-16の哺 乳類ホモログである。我々はFOXOファミリーが酸化ストレスによって活性化されGADD45など のストレス応答性遺伝子群の発現制御を行っていることを見出した。FOXOはコンセンサス配列 を介してGADD45プロモーターを直接活性化し、GADD45の発現を促進することで細胞周期をG2 期で停止させた。FOXOファミリーは、Insulin・IGF-1/PI3K/Aktのシグナル伝達系によってリン 酸化を受け、核外排出されることで細胞質に局在し活性を失っている。ところがH2O2処理などの 酸化ストレスに応答して、FOXOファミリーは速やかに核内に蓄積した。これはAktの活性化状態 に依存しない機構で、核排出を促進するAktリン酸化部位の脱リン酸化によると考えられた。線虫 ではNAD依存的脱アセチル化酵素Sir2.1がDAF-16シグナルカスケードを介して長寿命をもたら していることが知られている。そこで、我々はSir2.1の哺乳類ホモログであるSIRT1とFOXO4の 相互作用について調べた。転写共役因子p300は転写複合体の形成を介してFOXO4の転写活性を 制御するが、p300によるFOXO4のアセチル化はFOXO4の活性を減少させた。一方、哺乳類 SIRT1は核に蓄積したFOXO4と結合し、NAD+依存的にFOXO4の脱アセチル化を行うことで FOXO4の転写活性を増大させた。これらの結果から、酸化ストレスに応答してFOXOが核に蓄積 し、p300およびSIRT1と相互作用することで転写複合体を形成しアセチル化・脱アセチル化の制御 を受け転写活性化するという構造でストレス抵抗性獲得や長寿命に関係していることが示唆された。

キーワード:Forkhead transcription factor, FOXO, oxidative stress, Insulin signaling, SIRT1