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学会誌

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2001年5月
25巻2号
目次
<巻頭言>
後藤佐多良
<討論>
The Science of Ageing: Why, how and what should we study? 木谷健一
<総説>
マウスを用いた老化・寿命の分子遺伝学的研究 森 政之、樋口京一
大脳皮質や海馬の血流を増やす神経性血管拡張系は ニューロン保護に重要か? 堀田晴美
アルツハイマー病でのニューロンの変性は βアミロイドの神経毒性で説明できるのか? 内田洋子
<研究紹介>
ゾウリムシの分裂時計は?-テロメアとテロメラーゼの構造と動態- 竹中康浩、三井洋司
<トピックス>
体の大きさと寿命・老化 -老化の本質を垣間見る- 近藤 昊
<随筆>
日本基礎老化学会の黎明 -私どもの老化研究の回顧から- 田内 久
<学会報告>
The 17th Congress of the International Association of Gerontology参加記 下川 功
<体験記>
分子レベルで見る老化-老化は遺伝子にプログラムされているか-を執筆して 石井直明
<書評>
活性酸素と老化制御 中村明宏
老化?年をとると人間のからだはどうなるのか? 本田修二
附:基礎老化学会サーキュラー 第57号

マウスを用いた老化・寿命の分子遺伝学的研究

森 政之、樋口京一
信州大学医学部附属加齢適応研究センター 脈管病態分野

要約
マウスはヒトを含めた生物の老化機構の解明に有用なモデル生物である。多くの近交系が 確立され、それらの老化プロファイルの比較、あるいは寿命の遺伝学的な解析が行なわれて来 た。最近は新たなアイデアや分子生物学的実験技術の発達と相まって、マウスを用いて老化関 連病態や老化機構の核心に迫るような研究も展開されつつある。遺伝的に長寿命、あるいは早 期老化(短寿命)を示すミュータントマウス、トランスジェニックマウスや遺伝子ノックアウ トマウスが相次いで報告されている。また、分子レベルでの加齢依存的変化を捉える試みとし て、体細胞ゲノムへの変異の蓄積、遺伝子発現レパートリーの加齢変化とその機構の解明、体 細胞クローンを用いた研究などが展開されている。これらの研究はいずれも初歩的な段階であ るが、今後の進展が期待される。同時に、マウスを用いた研究から得られたデータをヒトの基 礎老化研究にどのように活用するかが重要であろう。

キーワード:mouse, molecular genetics, senescence, gene, mutant

大脳皮質や海馬の血流を増やす神経性血管拡張系はニューロン保護に重要か?

堀田晴美
東京都老人総合研究所・自律神経部門

要約
前脳基底部に起始し大脳皮質や海馬に投射するコリン作動性神経は、ムスカリン性受容体や ニコチン性受容体を介して大脳皮質や海馬の血流を増やす神経性血管拡張系としての働きを持 ち、その賦活は脳動脈閉塞時の血流低下を軽減し、虚血による遅発性ニューロン死を防ぐ事実 がラットで示された。従ってこのコリン作動性神経性血管拡張系は、脳虚血に対する内因性防 御機構として重要な役割を持つと考えられる。老齢ラットでは、ニコチン性受容体機能が低下 するために前脳基底部刺激による大脳皮質血流増加反応が減弱する。ヒトにおいても老化に伴 う前脳基底部コリン作動性神経の変性や大脳皮質ニコチン性受容体の減少が報告されており、 それらはアルツハイマー病患者で著しいことから、コリン作動性血管拡張系の喪失による脳局 所血流調節不全が大脳皮質や海馬のニューロン変性を進める重要な要因の1つである可能性がある。

キーワード:neural regulation of cerebral blood flow, basal forebrain, cholinergic vasodilation,ischemia, delayed neuronal death

アルツハイマー病でのニューロンの変性はβアミロイドの神経毒性で説明できるのか?

内田洋子
東京都老人総合研究所 神経病理部門

要旨
本稿では、βアミロイド(Aβ)に神経毒性があるから、アルツハイマー病でニューロンの変性 脱落がおこるという仮説について、ニューロンの変性をひきおこすのは、 細胞外に沈着したAβ なのか、細胞内のAβなのか? Aβがどのような機構でニューロンの変性をひき起こすのか? について、培養系での実験所見と変異APPや変異プレセニリンを持つtransgenic mouseの組織 所見をまじえ、解説する。また、Aβ がニューロンの変性をひき起こすとすると、老人斑の出 現頻度と痴呆の程度が相関しないことをどう説明するのか?という点について、Aβがニュー ロンの細胞内環境を変化させ、発芽やPHF 形成を誘導することによって、結果的にニューロ ンの変性をひき起こす可能性について、私見を述べる。

キーワード:Aβ, neurotoxicity, transgenic mouse, neurofibrillary tangle

ゾウリムシの分裂時計は? -テロメアとテロメラーゼの構造と動態-

竹中 康浩a,b、 三井 洋司a, b
a 産業技術総合研究所 分子細胞工学研究部門
b 筑波大学大学院 応用生物化学系

要約
ゾウリムシ (Paramecium caudatum ) は接合から約60 回の分裂で接合不能な未熟期から接 合可能な成熟期へ移行することが知られている。ヒト細胞の分裂時計がテロメア短縮で説明 されている現状にかんがみて、我々はこのゾウリムシテロメア長が未熟期の長さを規定する 因子の1つであるかどうかを解明するため、まずテロメラーゼ活性触媒部位遺伝子 (Pc_TERT) のクローニングを行い、様々な分裂齢の細胞におけるPc_TERT mRNA 発現量 の変動を調べた。さらに同じ試料の核抽出物を用いてテロメラーゼ活性を測定した。その結 果 Pc_TERT mRNA とテロメラーゼ活性のいずれも未熟期から成熟期にかけて大きな変化 はなく定常的に発現していることが判明した。さらに分裂加齢に伴う大核テロメア長の変化 を調べたところ、一定の速度でテロメアが伸長していることが明らかになった。今後テロメ ラーゼ遺伝子の過剰発現や抑制によって、分裂加齢現象が変動するか否かを実証する為、ゾ ウリムシへの遺伝子導入・発現系の確立を行い、それに成功したところである。

キーワード:telomere, telomerase, TERT, tivision clock, Paramecium caudatum