A ganglioside-based immune checkpoint enables senescent cells to evade immunosurveillance during aging.
Charlène Iltis, et al.
Nat Aging. Online ahead of print (2024). DOI: 10.1038/s43587-024-00776-z.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39730825/
老化細胞は免疫系による排除の標的となる一方で、高齢個体ではその蓄積が顕著であり、免疫チェックポイントを介した免疫回避機構の関与が報告されています。しかし、ナチュラルキラー(NK)細胞など自然免疫からの回避機構については明らかにされていませんでした。
本研究では、複製老化を誘導したヒト胎児肺由来線維芽細胞MRC5をヌードマウスに移植し、NK細胞などの自然免疫細胞がリクルートされる一方で、NK細胞の脱顆粒や細胞傷害性が抑制されることを発見しました。この作用がSASP非依存的であることから、細胞表面分子の関与が示唆され、質量分析により細胞表面のグリコカリックス(糖衣)を解析したところ、ガングリオシドの一種であるGD3が老化細胞で増加していることが判明しました。さらに、GD3の生合成に関与する糖転移酵素ST8SIA1の発現制御やグリコシダーゼ処理、抗GD3抗体投与を通じて、GD3が抑制性受容体Siglec-7を介してNK細胞の機能を抑制することを明らかにしました。加齢性疾患モデルの解析では、肺、肝臓、腎臓の線維化モデルにおいてGD3陽性細胞が観察され、これらが老化細胞の特徴を示すことを確認しました。また、肺線維化モデルに抗GD3抗体を投与した結果、老化細胞の減少、線維化の抑制、生存率の向上が認められました。さらに、18か月齢の高齢マウスに抗GD3抗体を投与した実験では、肺と肝臓の線維化抑制効果に加え、骨保護効果も観察されました。
これらの結果から、GD3を介したNK細胞の免疫監視回避が老化細胞の蓄積および肺線維化の進行に寄与することが示唆されました。そして、GD3を標的とした免疫療法は、加齢性疾患の進行を抑える新たな治療戦略となる可能性が示されています。
(文責:藤田 泰典)