COPI vesicle formation and N-myristoylation are targetable vulnerabilities of senescent cells.
Domhnall McHugh, et al.
Nature Cell Biology. 25: 1804-1820 (2023). DOI: 10.1038/s41556-023-01287-6.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38012402/
セノリシス剤は抗がん剤として用いられてきた物が多く、副作用の懸念があり課題があります。今回ご紹介する論文はセノリシス作用の新たなターゲットを発見し、本標的剤の臨床応用の可能性を明らかにしました。
本論文ではRAS誘導性の老化細胞に5000種類のノックダウンsiRNAライブラリーを発現させ、その中から127種類のsiRNAが老化細胞の細胞死を誘導する分子として特定されました。そこに含まれていたのが、ゴルジ体と小胞体間の輸送に関わる小胞体形成過程に関与するコートマー複合体I(COPI)関連遺伝子で、発現抑制により老化細胞特異的にCaspase3/7依存性の細胞死を誘導することを発見しました。実際にCOPI形成を阻害する薬剤を老化細胞に処理すると選択的に細胞死を誘導しました。
老化細胞ではCOPI形成過程に関わる遺伝子群が高発現し、老化細胞の指標の一つになっています。RAS発現で細胞老化を誘導するとゴルジ体が拡張しますが、COPI関連遺伝子COPB2をノックダウンした細胞では細胞老化を誘導するとゴルジ体が分散し破壊されました。老化細胞では増加したSASPがたんぱく質のフォールディング異常を誘導し、このSASPと異常たんぱく質の蓄積に備えるためゴルジ体が拡張します。一方COPB2をノックダウンした細胞では、ゴルジ体が破壊されることで本来分泌されるたんぱく質の細胞内蓄積が増加します。それにより異常タンパク質の過剰蓄積が正常なオートファジー機能を阻害し、その結果生じるタンパク質毒性が老化細胞選択的な細胞死のメカニズムです。
臨床応用を見据えてCOPI阻害剤のセノリシス作用をin vivo試験で確認しました。COPI経路を標的とした既存の薬剤は薬理学的特性が乏しく、臨床使用が妨げられています。本論文では、COPI形成に必須であるARF機能にはミリストイル化による翻訳後修飾が必須であることを明らかにし、ミリストイル化阻害剤を使用しました。この阻害薬は複数の老化モデルでセノリシス作用を示しました。
ミリストイル化される分子は多数存在するので、実際の臨床使用には課題が残ると著者らも指摘しています。安全性をさらに検証する必要がありますが、本経路を標的とした新たなセノリシス剤の開発のきっかけとなることが期待されます。
(文責:澁谷 修一)