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編集委員会からのお知らせ:2025年2月号海外文献紹介

Engineered commensals for targeted nose-to-brain drug delivery.

Haosheng Shen, et al.
Cell.
S0092-8674(25)00046-7 (2024). DOI: 10.1016/j.cell.2025.01.017.

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39914382/

 中枢神経系疾患に対する創薬研究は長年にわたり多くの研究者によって進められてきました。特に、パーキンソン病やアルツハイマー病の治療薬候補が数多く同定されてきたものの、脳を標的とした治療薬の送達は依然として大きな課題とされています。その最大の要因の一つが血液脳関門(Blood Brain Barrier; BBB)の存在です。BBBは脳内への外部からの物質の侵入を厳しく制限するため、多くの薬物が脳に到達しにくいとされています。
 今回紹介させていただく論文では、嗅上皮(Olfactory Epithelium; OE)を介した経鼻投与による脳内薬物送達(nose-to-brain delivery route) に着目し、新たな治療法を提案しています。筆者らは、OEに親和性を持つ共生細菌 Lactobacillus plantarum WCFS1(Lp) を同定し、この細菌をベクターとして改変することで、治療用タンパク質の脳内送達を実現する方法を開発しました。
 具体的には、筆者らは食欲抑制ホルモン Leptin を分泌するように改変した Lp をマウスの鼻腔内に投与し、OE への結合、および脳内への移行・蓄積を確認しました。その後、高脂肪食を与えた肥満モデルマウスに対し、Leptin 分泌型 Lp を 8 週間にわたって毎日交互に鼻腔投与したところ、食欲の減退、体重増加の抑制、糖代謝の改善、脂肪量沈着の抑制に有意な改善効果が認められました。
 これらの結果から、本研究のアプローチは中枢神経系疾患に対する新たな治療戦略としての可能性を示しており、特にパーキンソン病やアルツハイマー病などの治療薬開発において有望な手法となることが期待されます。また、本研究で用いられた Lactobacillus plantarum WCFS1 をベースにした技術は、他の細菌を利用することで、より多様な中枢神経疾患への治療応用が可能になる可能性もあります。今後のさらなる研究により、この技術がより多くの疾患に適用されることが期待されます。
(文責:多田 敬典)

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