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編集委員会からのお知らせ

 海外文献紹介2019年3月号

Time-Restricted Feeding Prevents Obesity and Metabolic Syndrome in Mice Lacking a Circadian Clock.

Amandine Chaix et al.
Cell Metabolism 28: 303-319 (2019).

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/30174302

 食餌制限による寿命延伸効果は、多くの研究者によって明らかにされていますが、近年、時間制限摂食(Time-restricted feeding)にも注目が集まっています。概日時計を破壊したマウスでは、肥満などの代謝異常を示すことから、代謝調節において概日時計は重要な役割を持つことが考えられてきました。しかし、時計遺伝子の変異体では、摂食パターンに障害が見られるため、これらの変異体における代謝異常が、時計遺伝子が破壊されたことによる直接的な影響なのか、摂食パターンの障害による二次的な影響なのかについては明らかにされていませんでした。本論文では、時間制限摂食によって摂食パターンを修正することで、時計遺伝子の変異体においても代謝異常を防ぐことができることを示しています。
 筆者らは、異なる3系統の時計遺伝子ノックアウトマウス(
Cry1;Cry2 double KOLiver-specific Rev-erb-α and -β double KOLiver-specific Bmal1 KO )を用いて、高脂肪食に24時間アクセス可能なグループ(自由摂食)と夜間の10時間のみアクセス可能なグループ(時間制限摂食)に分けて実験を行なっています。その結果、時間制限摂食のグループでは、摂食量や運動量は自由摂食グループと変化がないにも関わらず、時計遺伝子の変異体においても野生型と同様に、高脂肪食による体重の増加が見られませんでした。また、時間制限摂食によって、全身および肝臓での脂肪の蓄積が抑制されていました。そして、トランスクリプトーム解析、メタボローム解析の結果、遺伝子型に関わらず、時間制限摂食によって肝臓でのストレス応答関連遺伝子群の発現が上昇していることがわかりました。さらに、時計遺伝子変異体で消失していた、AMPKmTORなどの栄養感知シグナルパスウェイの日内変動のリズムが、時間制限摂食によって改善されることがわかりました。以上の結果から、時間制限摂食による代謝異常抑制効果は、概日時計非依存的なものであることがわかりました。これらの成果は、概日時計の機能が減弱することが知られている高齢者や、夜勤勤務者などにおいても、時間制限摂食が有効である可能性を示しています。しかしながら、本文中でも述べられている様に、本研究では老齢個体を用いた実験は行なっていないため、老齢個体においても時間制限摂食による効果があるのかどうか、さらなる研究が期待されます。
(文責:赤木一考)

PDF (127KB)


海外文献紹介2019年2月号

Exercise-linked FNDC5/irisin rescues synaptic plasticity and memory defects in Alzheimer’s models.

Mychael V. Lourenco et al.
Nat. Med.
25: 165-175 (2019).

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/30617325

 運動介入による脳機能向上の効果が多くの報告で認められております。一方で、認知症やアルツハイマー病(AD)を対象とした研究では、介入時期や負荷強度など様々な運動介入による脳機能への効果の違いについて論じられ、明確な結論には至っておりません。そのため両者の因果関係を明らかにするような、分子レベルからの解析が近年必要とされております。今回紹介する論文では、運動とAD改善を繋ぐ因子としてホルモンirisinに着目し、irisinの新しいAD治療薬としての可能性が示されております。
 運動により分泌が誘導される
irisinは、骨格筋に発現する膜タンパク質FNDC5が切断されることで生成されるマイオカインであり、これまで褐色脂肪細胞の成長、熱産生を促進することが知られてきました。本論文は、骨格筋だけでなくFNDC5が海馬や大脳皮質にも発現しirisinを分泌していることを見出し、脳内FNDC5/irisinの機能とADとの関連性を疑ったことから始まります。
 実際に
AD海馬と脳脊髄液中においてFNDC5 / irisinのレベルは減少しており、またFNDC5 / irisinをマウス脳内でノックダウンさせるとシナプス伝達の長期増強が減弱し、新規物体認識記憶の低下が見られました。反対にFNDC5 / irisinを脳内で過剰発現させると低下していたADモデルマウスのシナプス可塑性が回復し、正常な認知学習行動が観察されました。さらに運動刺激により誘導される末梢性FNDC5 / irisinADに対する効果の検討が行われました。運動したADモデルマウスの末梢性FNDC5 / irisinを阻害すると、運動介入により得られる脳機能向上効果が無効化されました。以上の結果からFNDC5 / irisinを介した運動介入によるAD改善効果が示唆されました。今後は、さらなるFNDC5 / irisinADに対する分子メカニズムが解明され、創薬化に繋がるような研究を期待したいと思いました。
(文責:多田敬典)

PDF (131KB)


海外文献紹介2019年1月号

Functional aspects of meningeal lymphatics in ageing and Alzheimer’s disease.
「加齢およびアルツハイマー病における髄膜リンパ管の機能的側面」

Sandro Da Mesquita et al.
Nature.
560: 185-191 (2018).

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/30046111

 リンパ管には間質液中の水分やタンパク質・老廃物などを血液循環に戻すという重要な役割があります。脳組織で生じた代謝産物は脳脊髄液を介して血液循環に排導されますが、これまでのところ、脳実質中には体の他の部位で認められるようなリンパ組織は見つかっておりません。近年、脳周囲に位置する髄膜(ただし、脳実質ではない)のリンパ管が、脳脊髄液の排出経路として寄与することが報告され、髄膜リンパ管の役割について注目されているようです。今月は、頭蓋内の髄膜リンパ管が脳脊髄液の排出を介して認知機能の維持に重要な役割を担うことを報告した論文を紹介させていただきます。
 まず本論文で著者らは、マウスの髄膜リンパ管にレーザー照射または外科的に結紮してリンパ管を傷害すると、脳脊髄液の流動が低下すること、恐怖記憶や空間学習・記憶が障害されることを示しました。続いて、老齢マウス(
20-24ヶ月齢)と若齢マウス(2-3ヶ月齢)を比べて髄膜リンパ管の加齢変化を検討したところ、脳脊髄液の流動およびリンパ管を介した脳脊髄液の排出は老齢マウスで低下していました。さらに老齢マウスの髄膜リンパ管は、直径が細く、分布が粗であること、そして髄膜リンパ管の新生成長因子に関わる遺伝子発現が低下していました。そこで著者らは、VEGF-C(血管内皮成長因子-C)が髄膜リンパ管の径を増大させるという著者らの先行研究を基に、AAV1ベクターでVEGF-Cを老齢マウスに発現させたところ、脳脊髄液の排出が増加し、空間記憶学習が向上することを明らかにしました。さらにVEGF-Cをハイドロゲルに添加して、経頭蓋的に作用させても類似の効果が認められました。著者らはさらにアルツハイマー病(AD)における髄膜リンパ管の変化について検討したところ、脳脊髄液の排出は、3ヶ月齢のADモデルマウスと同腹野生型マウスとで違いはないものの、ADモデルマウスの髄膜リンパ管を傷害すると、脳内のタンパクの蓄積が増悪し、マクロファージの浸潤が増加することを見出しました。
 本論文では、頭蓋内の髄膜リンパ管に着目して研究が展開されておりますが、脳脊髄液は、嗅神経鞘や硬膜-脊髄神経根の移行部からリンパ管を介して排導されることも知られております。同論文で報告されている加齢・病態時の変化が、頭蓋以外の部位でも生じるのか興味がわきました。

(文責:渡辺信博)

PDF (139KB)


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