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編集委員会からのお知らせ

 海外文献紹介2020年1月号

Microglia monitor and protect neuronal function via specialized somatic purinergic junctions.

Csaba Cserép, et al.
Science
. pii: eaax6752 (2019).

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/31831638

  このところ、アルツハイマー病(AD)研究領域ではミクログリアを主とする炎症関連の研究報告に沸き立っておりますが、ミクログリアの生理的機能についてもこれまでにない新しい発見が次々と寄せられております。中枢神経系におけるミクログリアの機能といえば、従来は脳内における炎症性反応の主役という認識のみでしたが(AD研究領域では専らこれですが)、近年は積極的にシナプスの神経突起に接触して神経伝達の調節に貢献しているという新たな機能が着目されるようになりました(Wu et al., Trends Immunol. 2015; Weinhard et al., Nat Commun. 2018等のreviewに詳しく紹介されています)。そして今回ご紹介する論文は、ミクログリアがシナプスのみならず神経細胞の細胞体にも直接コンタクトして神経細胞の状況を判断し、その保全に働いているというものです。
 GFP結合型CX3CR1(ミクログリアマーカー)を発現する遺伝子改変マウスの神経細胞にin uteroエレクトロポレーションでtdTomatoを遺伝子導入し、二光子顕微鏡によるライブイメージングや超解像顕微鏡を用いた検索を行ったところ、神経細胞の細胞体とミクログリア突起の間で明らかな接触サイトの存在が確認されました。驚いたことに、既にミクログリアのコンタクトサイトとして知られている樹状突起とのコンタクト継続時間が約7.5分であったのに対し、細胞体では約25分もの継続が確認されたそうです。またコンタクトの割合も、神経細胞の約90%が細胞体でミクログリアとコンタクトしているのに対し、シナプスでのコンタクトは興奮性・抑制性ともに10%前後と低いことも判明しました。さらに死後剖検脳を用いた組織検索により、ヒト脳でも約87%の神経細胞が細胞体でミクログリアとコンタクトしていることが確認されました。
 では、ミクログリアは何を認識して神経細胞の細胞体にコンタクトしているのか?筆者らは神経細胞から何らかの液性因子が放出されることでミクログリアがコンタクトしているのではないかと仮説を立て、神経細胞の細胞膜に局在する
Kv2.1(電位依存性カリウムチャネル)に着目しました。と言いますのも、Kv2.1は細胞質側で小胞側のSNAREと結合してエクソサイトーシスによる分泌を促進することが知られています。そこで、Kv2.1とミクログリアマーカーとの二重染色を行った結果、やはりKv2.1がクラスター化している細胞膜領域にミクログリアがコンタクトしていることが明らかとなりました。
 次の問題は、ミトコンドリアが認識する神経細胞由来液性因子(あるいは信号分子)の正体ですが、ミクログリアには
P2Y12RというP2Y型プリン受容体が高発現しており、神経細胞は神経活動に伴いATPADPをエクソサイトーシスすることが知られています。興味深いことに、P2Y12Rは脳内のミクログリアだけに発現しており、血管周囲のマクロファージには発現していないそうです。そこで超解像度顕微鏡を用いて検索した結果、やはりミクログリア突起のP2Y12Rと神経細胞細胞膜Kv2.1クラスター領域に高い共在性が確認され、さらにKv2.1クラスター領域ではミトコンドリア外膜蛋白であるTOM20陽性小胞が集簇していることが明らかになりました。つまり、神経細胞のミトコンドリア由来の小胞が細胞膜におけるミクログリアとのコンタクトサイトからATPを放出し、それをミクログリアが受け取っている可能性が示唆されました。また、P2Y12Rの阻害剤であるPSB0739を生体マウスの大槽内に投与すると、神経細胞の細胞体とミクログリアとのコンタクトが45%ダウンしたのに対し、シナプスでのコンタクトに変化は見られなかったとのことで、細胞体とシナプスとではミクログリアが認識するターゲット分子が異なる可能性が示唆されました。
 最後に、神経活動や神経損傷との関係を検索したところ、
DREADDシステムで神経活動を人工的に惹起すると、やはりミクログリアとニューロン細胞体とのコンタクトの増加がみられ、P2Y12RノックアウトマウスやPSB0739ではコンタクト形成が阻害されました。また、脳梗塞モデル(腔内中大脳閉塞モデル)でも両者のコンタクトが上昇するとともに、PSB0739を投与した脳梗塞モデルではコンタクトの低下とともに神経細胞におけるCa2+シグナルの上昇が見られ、最終的な神経細胞の損傷範囲が大きく増加することが明らかとなりました。これらの結果から、ミクログリアは神経細胞が常時放出するATPをモニターしており、神経活動の変化等に応じて神経細胞の保全に努めている可能性が示唆されました。
 今回ご紹介した論文では、二光子顕微鏡を用いたライブイメージングや超解像顕微鏡を用いた検索が大きく貢献しています。今後、このような新しい技術の導入により、これまで見えてこなかった新たな事実が次々と明らかになっていくことが期待されます。(文責:木村展之)

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海外文献紹介2019年12月号

Undulating changes in human plasma proteome profiles across the lifespan.

Benoit Lehallier, et al.
Nature Medicine. 25: 1843-1850 (2019).

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/31806903

 近年、プロテオーム解析技術の進展はめざましく、数多くのタンパク質の変動解析から、さまざまな情報を得ることができるようになってきました。今回ご紹介するのは、血しょう成分のプロテオームを詳しく調べることによって、健康や寿命などを予測できるようになるかも、という論文です。
 老化は、寿命に重大な影響を与える多くの慢性疾患の主なリスクファクターとなっています。そのため、老化のメカニズムを明らかにすることは、これら慢性疾患の治療や予防のターゲットを見つける上で重要であると考えられます。一方、パラビオーシスとして知られている現象、すなわち若いマウスの血液を循環させることによって、老齢マウスの老化や疾患による機能障害が回復するという報告があることから、
Lehallierらは血液成分の何らかの加齢変化が、老化や老化関連疾患のメカニズムに関係するだろうと考えました。そこで彼らは、18歳から95歳までの4,331人の血しょうプロテオームを解析し、一人あたり2,925種類の血漿タンパク質を測定しました。彼らがプロテオーム解析に用いたのはSomaScanアプタマーというシステムで、DNAアプタマーを利用して何千ものタンパク質の定量を行うシステムです。これらの血しょうタンパク質の発現と年齢との関連を調べたところ、373種類の血漿タンパク質が、年齢に伴って変化することを発見し、これらをproteomic clockと名付けました。このproteomic clockのタンパク質を調べることで、個人の「生物学的年齢」あるいは「機能的年齢」が推定できますので、暦年齢との差から健康状態や疾患のリスクなどの予測に役立つ可能性が示唆されました。このような新しいアプローチによって、老化関連疾患の治療や予防のターゲット発見につながる、予想外の分子やパスウェイが明らかになるかもしれません。
(文責・三浦ゆり)

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海外文献紹介2019年11月号

Developmental ROS individualizes organismal stress resistance and lifespan.

Daphne Bazopoulou, et al.
Nature
. 576: 301-305 (2019).

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/31801997

 均一な遺伝的背景を持つ個体群を同一の環境で飼育しても、寿命には大きな個体差が現れます。今回紹介するのは、その疑問にアドレスした論文です。
 線虫を用いた研究から、活性酸素(
ROS)による軽度なストレス(ミトホルミーシス)によって寿命が延伸することが知られています。そのことから筆者らは、発生過程におけるROSが成虫の寿命に影響するという仮説を立て研究を行いました。
 まず筆者らは、レドックスセンサー(Grx1-roGFP2)を発現させた線虫を用いて、幼虫期(L2)における酸化還元状態を測定しました。その結果、均一な遺伝的背景を持つにもかかわらず、個体の酸化還元状態は様々であることがわかりました。さらに、興味深いことに、幼虫期において酸化状態が高かった個体群では、成虫では酸化状態が低いことがわかりました。そして、それらの個体群は、ヒートショック耐性、酸化ストレス耐性が強く、寿命も延伸していることがわかりました。また、その寿命延伸効果は、幼虫期にパラコート給餌による酸化ストレスを与えることで再現できました。次に、そのメカニズムとして、幼虫期に酸化状態が高い個体群では、H3K4me3レベルが対照群に比べて顕著に低いことがわかりました。さらに、HeLa細胞を用いて、ROSによってH3K4me3レベルが低下することを確認しました。そしてそれらは、ヒストンメチル基転移酵素であるSET1/MLLを含むCOMPASS複合体によって翻訳後調節されていることを明らかにしました。最後に、遺伝学的にH3K4me3レベルを低下させることで、ストレス耐性の上昇および寿命延伸が再現できることを確認しています。以上の結果から、発生過程におけるROSによる軽度なストレスが、H3K4me3レベルの低下というエピジェネティックな変化を引き起こし、成虫でのストレス耐性を上昇させ寿命が延伸することがわかりました。 近年では、発生過程における栄養状態および腸内細菌叢が成体の寿命に影響するという研究も行われていますが、それらとの関係についても今後のさらなる研究が期待されます。
(文責:赤木一考)

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海外文献紹介2019年10月号

Regulation of lifespan by neural excitation and REST.

Joseph M. Zullo, et al.
Nature
. 574: 359-364 (2019).

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/31619788

ヒトの寿命は一体何によって決まるのか?この命題を明らかにするために、多くの研究者が寿命を規定する因子の探索に様々な視点から挑み続けている。

 今回紹介する論文では、寿命の延伸に対して老齢期における神経細胞の興奮抑制が関与していることが示唆された。本論文で筆者らは、死後脳大脳皮質を用いてトランスクリプトーム解析を行い、寿命と相関性のある因子を探索したところ、寿命が長い人では神経細胞興奮に関わる遺伝子の発現が抑制されていることを突き止めた。一方で核内の転写因子RESTの量は、百寿者の前頭前皮質において増加していることが分かった。線虫を用いた解析においても、神経細胞興奮の抑制により寿命が延長し、RESTの線虫オルソログであるspr-3およびspr-4の機能欠失型変異では神経細胞興奮の上昇が見られ、寿命が長いことで知られるdaf-2変異体の寿命を短縮させた。さらにRESTspr-3spr-4はそれぞれ哺乳類、線虫の寿命制御に関連する転写因子FOXO1DAF-16を活性化させた。これらの結果より、RESTを介した神経細胞興奮関連因子の調節が、老化の進行過程において重要な役割を担うことが示された。
 また寿命延伸には神経細胞の興奮と抑制バランスの不均衡が老化のプロセスに深く寄与している可能性があり、今後の脳内ネットワーク機構の恒常性維持と寿命とのさらなる因果関係の解明が期待される。
(文責:多田敬典)

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海外文献紹介2019年9月号

Amyloid β oligomers constrict human capillaries in Alzheimer's disease via signaling to pericytes.

Ross Nortley, et al.
Science.
365: eaav9518 (2019)

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/31221773

 アルツハイマー病の原因のひとつとして、アミロイドβ)が挙げられています。が神経細胞の機能障害やシナプスの減少を引き起こすことで、認知機能が低下すると考えられています。一方、認知機能を維持するためには、脳組織に酸素や栄養素を供給する血流の存在も無視することはできません。近年、脳の毛細血管周囲に位置する周皮細胞(ペリサイト)が収縮・弛緩することにより、毛細血管径を調節し、脳血流の調節に寄与することが複数の研究室から報告されています。今月は、が大脳皮質の毛細血管を収縮させる機序(周皮細胞へのシグナル)を明らかにした論文を紹介させていただきます。
 同論文で重要な点としましては、ヒト新鮮脳スライス標本(脳外科手術時に摘出した組織)を用いたことです。Aβ1-42を投与すると、周皮細胞が位置する部分で毛細血管が収縮することを明らかにしました。この結果は、先行研究や同論文内で報告されているラットやマウスの脳毛細血管の反応と同様のものでした。続いて、上述のAβ1-42の作用機序をラット・マウスの脳で検討しました。その結果、Aβ1-42投与による毛細血管の収縮反応は、superoxide dismutase 1 SOD1)投与で消失すること、nicotinamide adenine dinucleotide phosphateNADPHoxidaseNADPH oxidase 4NOX4)、エンドセリンA受容体を薬理的に遮断することでも消失することが示されました。さらに、過酸化水素やエンドセリン自体を投与しても、脳の毛細血管が収縮することが示されました。なお、過酸化水素による反応はエンドセリンA受容体ブロッカーで減弱するのに対し、エンドセリンの反応はSOD1で変化しないことから、Reactive oxygen speciesROS)がエンドセリンを遊離(または作用を増強)させることが示唆されました。著者らは、周皮細胞がエンドセリンによって活性化することやAβ1-42投与によって生じるROSは、周皮細胞で特に強く認められることなども示しました。
 これらの結果より、は周皮細胞内でNOX4を活性化してROSを発生させ、エンドセリンを遊離(または作用を増強)させることにより、周皮細胞を収縮させ、毛細血管を収縮させると著者らは結論づけました。脳血流調節のしくみの破綻がアルツハイマー病の成因に、どのように、そしてどの程度関与するのか、今後の展開に注目していきたいと思います。
(文責:渡辺信博)

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海外文献紹介2019年8月号

Suppression of autophagic activity by Rubicon is a signature of aging.

Shuhei Nakamura, et al.
Nat Commun.
10: 847 (2019)

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/30783089

 細胞内のリサイクリング機構としてAutophagyが存在することはよく知られている。近年では、MacroautophagyMitophagyなど様々な種類が存在することも明らかとなってきた。Atg遺伝子などこれらの機構解明は、老化や種々の神経変性疾患に深く関与するとされ、日本人グループを中心として熾烈な研究競争が行われている。しかしAutophagyが、Rubiconによって抑制されることはあまり知られていない。そこで本論文では、Rubiconと寿命の関係について検討・報告している。実験では、線虫やショウジョウバエ、マウスでは加齢に伴いRubiconが増加すること、RNAiRubiconを抑制するとAutophagyが活性化して変性タンパク質凝集が抑制、運動機能も改善して、寿命までもが延伸することを明らかにした。これより、ヒトを含めた健康寿命の延伸のキーワードの一つにはRubicon制御が重要であると提唱している。基礎老化研究でもよく耳にするカロリー制限モデルも本論文内では検討しており、Rubiconの更なる詳細な機構解明に興味が持たれる。
(文責:福井浩二)

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海外文献紹介2019年7月号

L1 drives IFN in senescent cells and promotes age-associated inflammationNeuron-Astrocyte

Marco De Cecco, et al.
Nature
. 566: 73-78 (2019)

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/30728521

 今回ご紹介させて頂く論文は、ゲノム不安定性が細胞老化のDAMPsおよびSASPの誘導基盤であり、レトロトランスポゾン(LINE1)の発現がその誘導起点となっていることを証明した論文です。
 先ず、著者らは、ヒト胎児肺から樹立された線維芽細胞をもちいて、分裂停止期に入った細胞(
SEN entry)、その後8週間(SEN early(E))、16週間培養した細胞(SEN late(L))を用意し、in vitro実験を実施しています。SA-β-galγ-H2AXCdk阻害因子(p21, p16)・SASP因子mRNA発現・LINE-1(L1) RNA発現・IFN-α, -β1 (IFN-I) mRNA発現を確認し、全て細胞老化に順相関を示したことを確認しています。また、Ha-RASおよびγ放射線による細胞老化でも同様の結果を得たと報告しています。また、発現するL1配列のマッピングも行っており、ゲノム上にマッピングされた658クローンは、224か所のL1配列にマッピングされ、そのうち、19か所のL1配列がシャペロン活性や逆転写酵素などをコードするORF1, 2を発現する完全なL1Hsであったと報告しています。
 次に、
L1の発現調節を担っていると予測された3’-エキソヌクレアーゼTREX1, ヘテロクロマチン構成転写抑制因子RB1, L1 5’UTRに結合するFOXA1転写因子について解析をおこなっています。IFN-I-α, -β1)の発現を指標にして、それぞれのノックダウン(KD)・過剰発現株(OE)で試験しています。その結果、TREX1RB1KDFOXAOE株において、SEN (L) 老化細胞でのIFN-Iシグナルに関連する84遺伝子の発現様式をほぼ再現できたと報告しています。
 さらに、逆転写酵素阻害薬ラミブジン(
3TC)により、L1発現による細胞老化の表現型を抑止することができるか、細胞とマウス個体をもちいたin vitro, in vivoの実験系において検証しています。その結果、細胞系において、部分的にIFN-Iの応答性を抑え、老化細胞後期(SEN (L))のSASP発現を抑制できたと報告しています。
 また、マウス(肝臓・骨格筋・脂肪組織)では、先ず
26か月齢の高齢マウスでL1配列(特に、MdA, MdN, Tf)の発現を確認し、SA-β-galIFN-Iシグナルに応答する遺伝子発現(Ifna, Irf7, Oas1)・SASP因子発現(Il6, Mmp3, Pai1)が順相関を示したと報告しています。そこで、3TCの効果を検証し、IFN-Iおよび部分的なSASP因子の発現に有意な抑止効果が確認でき、その効果は、老化細胞を静止する(senostatic)効果であったと報告しています。
 著者らは、これらの結果をもとに、今後の課題として、
L1以外の内在性RTEs、細胞質DNAの由来、多様なインターフェロン応答について考察しています。また、ヒトの真皮線維芽細胞の老化細胞においても、p16, L1 ORF1, p-STAT1の存在量に順相関が確認されたとするデータを示しており、今回の実験結果がヒトでも適合するとの期待をもたせています。
 本論文では、老化細胞を初期と後期段階に区別し、細胞質
DNAに依存したIFN-I応答を抑止する3TCSenostatic(老化細胞静止)効果を提唱しています。p16発現、IL-1βなどのSASP関連因子を発現する老化初期を標的とするSenolytic(老化細胞除去)効果と比べ、生体にどのような違いを生じ、如何に有益な効果をもたらすのか、今後の成果に期待したいと思います。
(文責:石井恭正)

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海外文献紹介2019年6月号

Neuron-Astrocyte Metabolic Coupling Protects against Activity-Induced Fatty Acid Toxicity.

Maria S. Ioannou, et al.
Cell
. 177: 1522-1535.e14 (2019)

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/31130380

 細胞の中では、脂肪酸はトリアシルグリセリドの形で脂肪滴(lipid droplet)中に貯留されています。これは、エネルギー源としての脂肪酸を貯蔵することに加え、細胞質中に過度に存在すると毒性が生じる脂肪酸を、細胞質から除去するという意義もあると考えられています。しかし、多くの神経細胞には、基本的に、脂肪滴が他の細胞ほどには存在せず、ミトコンドリアでの脂肪酸代謝によるエネルギー産生能も低いことが知られています。したがって、特に神経活動が亢進している時などには、二つの問題が生じます。一つは、エネルギーが枯渇する可能性、もう一つは、細胞質における過酸化脂質の蓄積です。神経活動が亢進すると活性酸素の産生量も上昇しますが、活性酸素の作用によって生じる過酸化脂肪酸は毒性が高いため、細胞質に蓄積することで神経変性や神経細胞死へと至るような負の作用が生じます。それでは神経細胞は、これらの問題を回避するためにどのような工夫をしているのでしょうか?今回ご紹介する論文では、神経細胞とグリア細胞の一種、アストロサイトの間での代謝的共役により、神経活動亢進時に生じる過酸化脂肪酸毒性から神経細胞を保護する巧妙な仕組みが報告されています。
 論文著者
(以下、著者)らは先ず、培養海馬ニューロンをグルタミン酸受容体のアゴニストの一種、NMDAで処理して興奮させると、細胞内の過酸化脂質が増えることを示しています。また、これに伴いオートファジーマーカーLC3の上昇も見とめられます。したがって、過酸化脂質がオートファジーにより分解されることで、そのままでは脂肪酸が細胞質に蓄積することが想定されます。上述の通り、非神経細胞では脂肪滴に脂肪酸を取り込むことで細胞質中の脂肪酸の蓄積を防ぎます。しかし本論文においても、NMDA刺激されたニューロンでは、脂肪滴は有意に増加するものの増加幅は小さく、しかも神経細胞ではミトコンドリアにおける脂肪酸の代謝も少ないため、残りの脂肪酸がどのように処理されるのかが問題となります。
 そこで著者らは、神経細胞内で処理されない脂肪酸は細胞外に放出され、周囲の他の細胞、すなわちアストロサイトにより処理されるのではないかと考えます。この仮説を検証するため、赤色色素でラベルした脂肪酸、Red-C12を用いて、脂肪酸の移動を観察しました。先ずニューロンにRed-C12を取り込ませ、Red-C12を含まないアストロサイトと共培養します。この時、ニューロンとアストロサイトはパラフィン薄膜で隔てられており接触していないのですが、ニューロンに取り込ませたRed-C12の多くがアストロサイトに移動しているのが観察されました。この時、アストロサイトでは脂肪滴の増加も見られます。引き続き、著者らは、リポタンパク質ApoEを構成成分とする脂質顆粒に含まれた脂肪酸が、エンドサイトーシスによりアストロサイトに取り込まれることを示しています。また、生きているラットの大脳皮質に外傷(stroke)モデルによる酸化ストレスを導入し、in vivoでもニューロンからアストロサイトへの脂質の移動が起こることを示しています。さらに、外傷モデルではニューロンもアストロサイトも酸化ストレスを受けるため、アデノ随伴ウィルス(AAV)を用いてニューロン選択的に化学物質の受容体を発現させることで、化学刺激によりニューロン選択的に活動を亢進させた場合でも、同様にアストロサイトへの脂質の移動が見られることを示しました。
 最後に、培養アストロサイトの系において、NMDA刺激による脂肪滴の減少、脂肪酸の代謝の増加、および酸化ストレス・脂質代謝関連遺伝子(sod1, sod3など)発現の上昇が見られることを報告しています。(注 近年、アストロサイトに於けるNMDA型グルタミン酸受容体の発現が報告されており、著者らは活動が亢進したニューロンから放出されたグルタミン酸がアストロサイトのNMDA受容体を活性化すると考えています。)
 以上が著者らの主張に沿った論文の概要になりますが、個人的には、神経活動亢進によるニューロン中の過酸化脂質の増加と同期して、アストロサイトによる脂質顆粒の取り込み及び脂肪酸代謝が亢進する点が興味深く感じられます。一方、この論文中での神経活動の亢進は全て薬理学的刺激によるものであり、実際に、どの程度の神経活動によりこのような現象が誘導されるのかは定かではありません。またNMDA受容体の活性化から脂質顆粒のエンドサイトーシスや脂肪酸代謝の亢進へと至るシグナル系も示されておりません。これは個人的な推測になりますが、NMDA受容体はカルシウムイオンを透過させるイオンチャネルなので、細胞内カルシウムイオンの上昇が関与しているのかもしれません。
 以上、今回ご紹介した論文では、老化に関することは直接取り上げておりませんが、過酸化脂肪酸の蓄積が神経変性などの病態に関与すること、加齢個体においては様々な酸化脂質の蓄積が見られることから紹介させていただきました。
(文責:柿澤
昌)

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海外文献紹介2019年5月号

The Major Risk Factors for Alzheimer's Disease: Age, Sex, and Genes Modulate the Microglia Response to Aβ Plaques.

Carlo Sala Frigerio, et al.
Cell Rep
. 27: 1293-1306.e6 (2019)

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/31018141

 2013年にTREM2のレアバリアントがアルツハイマー病(AD)の発症リスク因子として同定されて以来、ミクログリアの機能や神経炎症にフォーカスした研究が大きなブームとなっています。今回ご紹介する論文もAD病態に伴うミクログリアの質的変化に関するものですが、AD主病変である老人斑を構成するbアミロイド蛋白質(Ab)のみならず、老化や性別との関係についても興味深いデータが報告されていましたので、取り上げさせていただきました。
 近年の研究により、ミクログリアは発現する遺伝子のパターン等により、恒常型と反応型の2種類に大きく分別されることが明らかとなってきました。今回筆者らはまず、野生型マウスとアミロイド前駆体蛋白質(APP)の過剰発現を伴わずに老人斑を再現するAPPノックインマウス(APP KIマウス)の大脳皮質と海馬からそれぞれセルソーティングによってミクログリアを単離し、発現している遺伝子のパターンによって恒常型(homeostatic 1 microglia; H1Mhomeostatic 2 microglia; H2M2グループ)、MHC class IIなどの炎症関連因子を高発現する反応型のうち、脳内コレステロール輸送を担いAD発症リスク因子でもあるアポリポ蛋白質EApoE)を高発現するactivated response microgliaARMs)とApoE発現レベルの低いtransiting response microgliaTRMs)、インターフェロン反応性因子を高発現するinterferon response microgliaIRMs)、DNA修復系因子やクロマチン修飾因子などを高発現するcycling/proliferating microgliaCPMs)の6種類に分別することができることを明らかにしました。そこで、これらミクログリアの存在数が老化や老人斑病理によってどのように変化するかを検索したところ、野生型とAPP KIマウスを問わず恒常型ミクログリアは老化とともに減少傾向にあり、特にH2Mと分類されたミクログリアの減少はAPP KIマウスでの減少が著しいことから、Abの蓄積や病変形成によってより影響を受けることが明らかとなりました。一方、反応型ミクログリアであるARMsTRMsIRMsはいずれも老化に伴い上昇傾向にありますが、こちらもARMsのみがAPP KIマウスで爆発的に上昇傾向にあり、Ab病理との強い相関性が示唆されました。ここで面白いのは、大脳皮質や海馬といった脳領域によってミクログリアの老化に伴う反応性に変化が見られなかったことです。逆に、オスとメスを比較した場合、APP KIマウスにおけるARMsの増加(=反応性の上昇)はメスの方がより早期から生じているという結果が明らかになりました。
 続いて、
ARMsにおける各種遺伝子の変化をより詳細に検討したところ、ApoEを初めとするADの発症リスク因子に大きな変化が見られることが判明しました。ApoEはゲノムワイド関連解析などの技術が発達する以前からAD発症のリスク因子として良く知られており、ApoE4をヘテロで持つと老年期におけるAD発症リスクが約5倍上昇し、ホモの場合は約13倍まで跳ね上がることが知られています。ApoEの主な機能はコレステロール輸送であることが知られていますが、脳内では主にアストロサイトで発現していることが知られていました。そこで筆者らは、ApoEが発現している細胞種の変化に着目して検索を進めたところ、野生型マウスではApoEを発現するミクログリアはあまり確認されなかった一方、APP KIマウスでは老人斑の周囲に集簇したミクログリアにおいて非常に強いApoEの発現が認められることがわかり、しかもその発現量は老人斑との距離が近いほど高いという空間的な相関性を有しておりました。そこで、ApoEがミクログリアの機能にどのような影響を及ぼすのかを明らかにするため、ApoEノックアウトマウスをバックグラウンドに持つAPP/PS1トランスジェニックマウス(APP KIマウスではないのが残念ですが、間に合わなかったか?)の脳を検索したところ、老人斑周囲へのミクログリアの集簇が低下し、反応性そのものも低下していることが判明しました。これらの結果から、ApoEは従来指摘されてきたコレステロール輸送やAbとの結合性に加え、ミクログリアの反応性にも関与することでAD発症リスクに関与している可能性が指摘されました。
 本論文について個人的に面白いと感じたのは、やはりメスのマウスでミクログリアの反応がより早期から生じているという結果です。統計学的に
AD発症率は女性の方が高く、その理由はこれまで不明でしたが(単に男性よりも長生きだからという意見もありますが)、もしミクログリアを中心とする脳内炎症の反応性が関与している可能性も考えられます。業界内では有名な話なのですが、APPトランスジェニックマウスはたいてい、メスの方がオスよりも病変形成が激しいことが知られています。残念ながら筆者らはあまり深い考察をしていないのですが、今後はこういった性差に関しても基礎老化研究が進んでいけば、これまで見えてこなかった新しい事実が判明するかもしれません。
(文責:木村展之)

PDF (172KB)


海外文献紹介2019年4月号

CD22 blockade restores homeostatic microglial phagocytosis in ageing brains.

John V. Pluvinage et al.
Nature.
568: 187-192 (2019).

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/30944478

 ミクログリアは、タンパク質の凝集体や細胞のデブリスを貪食することによって中枢神経系のホメオスタシスを維持しています。加齢や神経変性疾患などで認知機能が低下すると、このクリアランス能力は衰えることが知られています。しかしながら、ミクログリアの機能低下のメカニズムやこれを防ぐにはどうしたらよいかなどは、まだ明らかになっていません。そこで筆者らは、CRISPER-Cas9 ノックアウト解析とRNAシークエンス解析を組み合わせて、加齢に関連するミクログリア貪食能の制御因子を探索しました。
 制御因子として同定された
CD22は、シアル酸を含む糖鎖に結合するレクチン(シグレック)として知られています。「シグレック」は、主として免疫系の細胞に発現し、シアル酸を認識することによってシグナル伝達を引き起こす「シアル酸受容体」です。アルツハイマー病では、シグレックのひとつであるCD33の発現が増加することにより、ミクログリアによるアミロイドβのクリアランスが抑制されるなど、発現変化がミクログリアの貪食能に影響を与えることも報告されています。筆者らは、ミクログリアにおけるCD22の発現が加齢によって増加すること、またCD22をノックアウトするとミクログリアの貪食能が回復することを明らかにし、CD22が加齢によるミクログリアの貪食能低下の制御因子であることを突き止めました。
 次に筆者らは、ミクログリアにおける
CD22のシグナリングパートナーを探索したところ、CMAS(シアル酸の合成に関与する酵素)が強く相関するタンパク質としてヒットしました。そこで、CMASをノックアウトしたミクログリアの貪食能を調べたところ貪食能が増加し、CD22の貪食能抑制にシアル酸が関与している可能性が示唆されました。また、糖鎖のシアル酸の結合様式はα2,3-結合とα2,6-結合が存在するため、それぞれの合成糖ポリマーを用いてCMASのノックアウト細胞の貪食能に及ぼす影響を調べたところ、α2,6-結合のシアル酸を持つポリマーでは貪食能が抑制されましたが、α2,3-結合のシアル酸では効果はありませんでした。以上より、CD22α2,6-結合のシアル酸を介して貪食能を抑制することが明らかになりました。
 さらに
CD22を阻害したりノックアウトすることによって、老齢マウスの脳でミエリンデブリス、アミロイドβオリゴマー、α-シヌクレイン線維などのクリアランスが促進され、認知機能の改善も認められました。これらの知見から、シグレックCD22を中心とした加齢に伴うミクログリアの機能障害のメカニズムが明らかになり、老化脳におけるホメオスタシス回復への光明がみえてきました。
(文責:三浦ゆり)

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海外文献紹介2019年3月号

Time-Restricted Feeding Prevents Obesity and Metabolic Syndrome in Mice Lacking a Circadian Clock.

Amandine Chaix et al.
Cell Metabolism 28: 303-319 (2019).

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/30174302

 食餌制限による寿命延伸効果は、多くの研究者によって明らかにされていますが、近年、時間制限摂食(Time-restricted feeding)にも注目が集まっています。概日時計を破壊したマウスでは、肥満などの代謝異常を示すことから、代謝調節において概日時計は重要な役割を持つことが考えられてきました。しかし、時計遺伝子の変異体では、摂食パターンに障害が見られるため、これらの変異体における代謝異常が、時計遺伝子が破壊されたことによる直接的な影響なのか、摂食パターンの障害による二次的な影響なのかについては明らかにされていませんでした。本論文では、時間制限摂食によって摂食パターンを修正することで、時計遺伝子の変異体においても代謝異常を防ぐことができることを示しています。
 筆者らは、異なる3系統の時計遺伝子ノックアウトマウス(
Cry1;Cry2 double KOLiver-specific Rev-erb-α and -β double KOLiver-specific Bmal1 KO )を用いて、高脂肪食に24時間アクセス可能なグループ(自由摂食)と夜間の10時間のみアクセス可能なグループ(時間制限摂食)に分けて実験を行なっています。その結果、時間制限摂食のグループでは、摂食量や運動量は自由摂食グループと変化がないにも関わらず、時計遺伝子の変異体においても野生型と同様に、高脂肪食による体重の増加が見られませんでした。また、時間制限摂食によって、全身および肝臓での脂肪の蓄積が抑制されていました。そして、トランスクリプトーム解析、メタボローム解析の結果、遺伝子型に関わらず、時間制限摂食によって肝臓でのストレス応答関連遺伝子群の発現が上昇していることがわかりました。さらに、時計遺伝子変異体で消失していた、AMPKmTORなどの栄養感知シグナルパスウェイの日内変動のリズムが、時間制限摂食によって改善されることがわかりました。以上の結果から、時間制限摂食による代謝異常抑制効果は、概日時計非依存的なものであることがわかりました。これらの成果は、概日時計の機能が減弱することが知られている高齢者や、夜勤勤務者などにおいても、時間制限摂食が有効である可能性を示しています。しかしながら、本文中でも述べられている様に、本研究では老齢個体を用いた実験は行なっていないため、老齢個体においても時間制限摂食による効果があるのかどうか、さらなる研究が期待されます。
(文責:赤木一考)

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海外文献紹介2019年2月号

Exercise-linked FNDC5/irisin rescues synaptic plasticity and memory defects in Alzheimer’s models.

Mychael V. Lourenco et al.
Nat. Med.
25: 165-175 (2019).

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/30617325

 運動介入による脳機能向上の効果が多くの報告で認められております。一方で、認知症やアルツハイマー病(AD)を対象とした研究では、介入時期や負荷強度など様々な運動介入による脳機能への効果の違いについて論じられ、明確な結論には至っておりません。そのため両者の因果関係を明らかにするような、分子レベルからの解析が近年必要とされております。今回紹介する論文では、運動とAD改善を繋ぐ因子としてホルモンirisinに着目し、irisinの新しいAD治療薬としての可能性が示されております。
 運動により分泌が誘導される
irisinは、骨格筋に発現する膜タンパク質FNDC5が切断されることで生成されるマイオカインであり、これまで褐色脂肪細胞の成長、熱産生を促進することが知られてきました。本論文は、骨格筋だけでなくFNDC5が海馬や大脳皮質にも発現しirisinを分泌していることを見出し、脳内FNDC5/irisinの機能とADとの関連性を疑ったことから始まります。
 実際に
AD海馬と脳脊髄液中においてFNDC5 / irisinのレベルは減少しており、またFNDC5 / irisinをマウス脳内でノックダウンさせるとシナプス伝達の長期増強が減弱し、新規物体認識記憶の低下が見られました。反対にFNDC5 / irisinを脳内で過剰発現させると低下していたADモデルマウスのシナプス可塑性が回復し、正常な認知学習行動が観察されました。さらに運動刺激により誘導される末梢性FNDC5 / irisinADに対する効果の検討が行われました。運動したADモデルマウスの末梢性FNDC5 / irisinを阻害すると、運動介入により得られる脳機能向上効果が無効化されました。以上の結果からFNDC5 / irisinを介した運動介入によるAD改善効果が示唆されました。今後は、さらなるFNDC5 / irisinADに対する分子メカニズムが解明され、創薬化に繋がるような研究を期待したいと思いました。
(文責:多田敬典)

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海外文献紹介2019年1月号

Functional aspects of meningeal lymphatics in ageing and Alzheimer’s disease.
「加齢およびアルツハイマー病における髄膜リンパ管の機能的側面」

Sandro Da Mesquita et al.
Nature.
560: 185-191 (2018).

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/30046111

 リンパ管には間質液中の水分やタンパク質・老廃物などを血液循環に戻すという重要な役割があります。脳組織で生じた代謝産物は脳脊髄液を介して血液循環に排導されますが、これまでのところ、脳実質中には体の他の部位で認められるようなリンパ組織は見つかっておりません。近年、脳周囲に位置する髄膜(ただし、脳実質ではない)のリンパ管が、脳脊髄液の排出経路として寄与することが報告され、髄膜リンパ管の役割について注目されているようです。今月は、頭蓋内の髄膜リンパ管が脳脊髄液の排出を介して認知機能の維持に重要な役割を担うことを報告した論文を紹介させていただきます。
 まず本論文で著者らは、マウスの髄膜リンパ管にレーザー照射または外科的に結紮してリンパ管を傷害すると、脳脊髄液の流動が低下すること、恐怖記憶や空間学習・記憶が障害されることを示しました。続いて、老齢マウス(
20-24ヶ月齢)と若齢マウス(2-3ヶ月齢)を比べて髄膜リンパ管の加齢変化を検討したところ、脳脊髄液の流動およびリンパ管を介した脳脊髄液の排出は老齢マウスで低下していました。さらに老齢マウスの髄膜リンパ管は、直径が細く、分布が粗であること、そして髄膜リンパ管の新生成長因子に関わる遺伝子発現が低下していました。そこで著者らは、VEGF-C(血管内皮成長因子-C)が髄膜リンパ管の径を増大させるという著者らの先行研究を基に、AAV1ベクターでVEGF-Cを老齢マウスに発現させたところ、脳脊髄液の排出が増加し、空間記憶学習が向上することを明らかにしました。さらにVEGF-Cをハイドロゲルに添加して、経頭蓋的に作用させても類似の効果が認められました。著者らはさらにアルツハイマー病(AD)における髄膜リンパ管の変化について検討したところ、脳脊髄液の排出は、3ヶ月齢のADモデルマウスと同腹野生型マウスとで違いはないものの、ADモデルマウスの髄膜リンパ管を傷害すると、脳内のタンパクの蓄積が増悪し、マクロファージの浸潤が増加することを見出しました。
 本論文では、頭蓋内の髄膜リンパ管に着目して研究が展開されておりますが、脳脊髄液は、嗅神経鞘や硬膜-脊髄神経根の移行部からリンパ管を介して排導されることも知られております。同論文で報告されている加齢・病態時の変化が、頭蓋以外の部位でも生じるのか興味がわきました。

(文責:渡辺信博)

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