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編集委員会からのお知らせ

 海外文献紹介2019年5月号

The Major Risk Factors for Alzheimer's Disease: Age, Sex, and Genes Modulate the Microglia Response to Aβ Plaques.

Carlo Sala Frigerio, et al.
Cell Rep
. 27: 1293-1306.e6 (2019)

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/31018141

 2013年にTREM2のレアバリアントがアルツハイマー病(AD)の発症リスク因子として同定されて以来、ミクログリアの機能や神経炎症にフォーカスした研究が大きなブームとなっています。今回ご紹介する論文もAD病態に伴うミクログリアの質的変化に関するものですが、AD主病変である老人斑を構成するbアミロイド蛋白質(Ab)のみならず、老化や性別との関係についても興味深いデータが報告されていましたので、取り上げさせていただきました。
 近年の研究により、ミクログリアは発現する遺伝子のパターン等により、恒常型と反応型の2種類に大きく分別されることが明らかとなってきました。今回筆者らはまず、野生型マウスとアミロイド前駆体蛋白質(APP)の過剰発現を伴わずに老人斑を再現するAPPノックインマウス(APP KIマウス)の大脳皮質と海馬からそれぞれセルソーティングによってミクログリアを単離し、発現している遺伝子のパターンによって恒常型(homeostatic 1 microglia; H1Mhomeostatic 2 microglia; H2M2グループ)、MHC class IIなどの炎症関連因子を高発現する反応型のうち、脳内コレステロール輸送を担いAD発症リスク因子でもあるアポリポ蛋白質EApoE)を高発現するactivated response microgliaARMs)とApoE発現レベルの低いtransiting response microgliaTRMs)、インターフェロン反応性因子を高発現するinterferon response microgliaIRMs)、DNA修復系因子やクロマチン修飾因子などを高発現するcycling/proliferating microgliaCPMs)の6種類に分別することができることを明らかにしました。そこで、これらミクログリアの存在数が老化や老人斑病理によってどのように変化するかを検索したところ、野生型とAPP KIマウスを問わず恒常型ミクログリアは老化とともに減少傾向にあり、特にH2Mと分類されたミクログリアの減少はAPP KIマウスでの減少が著しいことから、Abの蓄積や病変形成によってより影響を受けることが明らかとなりました。一方、反応型ミクログリアであるARMsTRMsIRMsはいずれも老化に伴い上昇傾向にありますが、こちらもARMsのみがAPP KIマウスで爆発的に上昇傾向にあり、Ab病理との強い相関性が示唆されました。ここで面白いのは、大脳皮質や海馬といった脳領域によってミクログリアの老化に伴う反応性に変化が見られなかったことです。逆に、オスとメスを比較した場合、APP KIマウスにおけるARMsの増加(=反応性の上昇)はメスの方がより早期から生じているという結果が明らかになりました。
 続いて、
ARMsにおける各種遺伝子の変化をより詳細に検討したところ、ApoEを初めとするADの発症リスク因子に大きな変化が見られることが判明しました。ApoEはゲノムワイド関連解析などの技術が発達する以前からAD発症のリスク因子として良く知られており、ApoE4をヘテロで持つと老年期におけるAD発症リスクが約5倍上昇し、ホモの場合は約13倍まで跳ね上がることが知られています。ApoEの主な機能はコレステロール輸送であることが知られていますが、脳内では主にアストロサイトで発現していることが知られていました。そこで筆者らは、ApoEが発現している細胞種の変化に着目して検索を進めたところ、野生型マウスではApoEを発現するミクログリアはあまり確認されなかった一方、APP KIマウスでは老人斑の周囲に集簇したミクログリアにおいて非常に強いApoEの発現が認められることがわかり、しかもその発現量は老人斑との距離が近いほど高いという空間的な相関性を有しておりました。そこで、ApoEがミクログリアの機能にどのような影響を及ぼすのかを明らかにするため、ApoEノックアウトマウスをバックグラウンドに持つAPP/PS1トランスジェニックマウス(APP KIマウスではないのが残念ですが、間に合わなかったか?)の脳を検索したところ、老人斑周囲へのミクログリアの集簇が低下し、反応性そのものも低下していることが判明しました。これらの結果から、ApoEは従来指摘されてきたコレステロール輸送やAbとの結合性に加え、ミクログリアの反応性にも関与することでAD発症リスクに関与している可能性が指摘されました。
 本論文について個人的に面白いと感じたのは、やはりメスのマウスでミクログリアの反応がより早期から生じているという結果です。統計学的に
AD発症率は女性の方が高く、その理由はこれまで不明でしたが(単に男性よりも長生きだからという意見もありますが)、もしミクログリアを中心とする脳内炎症の反応性が関与している可能性も考えられます。業界内では有名な話なのですが、APPトランスジェニックマウスはたいてい、メスの方がオスよりも病変形成が激しいことが知られています。残念ながら筆者らはあまり深い考察をしていないのですが、今後はこういった性差に関しても基礎老化研究が進んでいけば、これまで見えてこなかった新しい事実が判明するかもしれません。
(文責:木村展之)

PDF (172KB)


 海外文献紹介2019年4月号

CD22 blockade restores homeostatic microglial phagocytosis in ageing brains.

John V. Pluvinage et al.
Nature.
568: 187-192 (2019).

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/30944478

 ミクログリアは、タンパク質の凝集体や細胞のデブリスを貪食することによって中枢神経系のホメオスタシスを維持しています。加齢や神経変性疾患などで認知機能が低下すると、このクリアランス能力は衰えることが知られています。しかしながら、ミクログリアの機能低下のメカニズムやこれを防ぐにはどうしたらよいかなどは、まだ明らかになっていません。そこで筆者らは、CRISPER-Cas9 ノックアウト解析とRNAシークエンス解析を組み合わせて、加齢に関連するミクログリア貪食能の制御因子を探索しました。
 制御因子として同定された
CD22は、シアル酸を含む糖鎖に結合するレクチン(シグレック)として知られています。「シグレック」は、主として免疫系の細胞に発現し、シアル酸を認識することによってシグナル伝達を引き起こす「シアル酸受容体」です。アルツハイマー病では、シグレックのひとつであるCD33の発現が増加することにより、ミクログリアによるアミロイドβのクリアランスが抑制されるなど、発現変化がミクログリアの貪食能に影響を与えることも報告されています。筆者らは、ミクログリアにおけるCD22の発現が加齢によって増加すること、またCD22をノックアウトするとミクログリアの貪食能が回復することを明らかにし、CD22が加齢によるミクログリアの貪食能低下の制御因子であることを突き止めました。
 次に筆者らは、ミクログリアにおける
CD22のシグナリングパートナーを探索したところ、CMAS(シアル酸の合成に関与する酵素)が強く相関するタンパク質としてヒットしました。そこで、CMASをノックアウトしたミクログリアの貪食能を調べたところ貪食能が増加し、CD22の貪食能抑制にシアル酸が関与している可能性が示唆されました。また、糖鎖のシアル酸の結合様式はα2,3-結合とα2,6-結合が存在するため、それぞれの合成糖ポリマーを用いてCMASのノックアウト細胞の貪食能に及ぼす影響を調べたところ、α2,6-結合のシアル酸を持つポリマーでは貪食能が抑制されましたが、α2,3-結合のシアル酸では効果はありませんでした。以上より、CD22α2,6-結合のシアル酸を介して貪食能を抑制することが明らかになりました。
 さらに
CD22を阻害したりノックアウトすることによって、老齢マウスの脳でミエリンデブリス、アミロイドβオリゴマー、α-シヌクレイン線維などのクリアランスが促進され、認知機能の改善も認められました。これらの知見から、シグレックCD22を中心とした加齢に伴うミクログリアの機能障害のメカニズムが明らかになり、老化脳におけるホメオスタシス回復への光明がみえてきました。
(文責:三浦ゆり)

PDF (143KB)


海外文献紹介2019年3月号

Time-Restricted Feeding Prevents Obesity and Metabolic Syndrome in Mice Lacking a Circadian Clock.

Amandine Chaix et al.
Cell Metabolism 28: 303-319 (2019).

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/30174302

 食餌制限による寿命延伸効果は、多くの研究者によって明らかにされていますが、近年、時間制限摂食(Time-restricted feeding)にも注目が集まっています。概日時計を破壊したマウスでは、肥満などの代謝異常を示すことから、代謝調節において概日時計は重要な役割を持つことが考えられてきました。しかし、時計遺伝子の変異体では、摂食パターンに障害が見られるため、これらの変異体における代謝異常が、時計遺伝子が破壊されたことによる直接的な影響なのか、摂食パターンの障害による二次的な影響なのかについては明らかにされていませんでした。本論文では、時間制限摂食によって摂食パターンを修正することで、時計遺伝子の変異体においても代謝異常を防ぐことができることを示しています。
 筆者らは、異なる3系統の時計遺伝子ノックアウトマウス(
Cry1;Cry2 double KOLiver-specific Rev-erb-α and -β double KOLiver-specific Bmal1 KO )を用いて、高脂肪食に24時間アクセス可能なグループ(自由摂食)と夜間の10時間のみアクセス可能なグループ(時間制限摂食)に分けて実験を行なっています。その結果、時間制限摂食のグループでは、摂食量や運動量は自由摂食グループと変化がないにも関わらず、時計遺伝子の変異体においても野生型と同様に、高脂肪食による体重の増加が見られませんでした。また、時間制限摂食によって、全身および肝臓での脂肪の蓄積が抑制されていました。そして、トランスクリプトーム解析、メタボローム解析の結果、遺伝子型に関わらず、時間制限摂食によって肝臓でのストレス応答関連遺伝子群の発現が上昇していることがわかりました。さらに、時計遺伝子変異体で消失していた、AMPKmTORなどの栄養感知シグナルパスウェイの日内変動のリズムが、時間制限摂食によって改善されることがわかりました。以上の結果から、時間制限摂食による代謝異常抑制効果は、概日時計非依存的なものであることがわかりました。これらの成果は、概日時計の機能が減弱することが知られている高齢者や、夜勤勤務者などにおいても、時間制限摂食が有効である可能性を示しています。しかしながら、本文中でも述べられている様に、本研究では老齢個体を用いた実験は行なっていないため、老齢個体においても時間制限摂食による効果があるのかどうか、さらなる研究が期待されます。
(文責:赤木一考)

PDF (127KB)


海外文献紹介2019年2月号

Exercise-linked FNDC5/irisin rescues synaptic plasticity and memory defects in Alzheimer’s models.

Mychael V. Lourenco et al.
Nat. Med.
25: 165-175 (2019).

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/30617325

 運動介入による脳機能向上の効果が多くの報告で認められております。一方で、認知症やアルツハイマー病(AD)を対象とした研究では、介入時期や負荷強度など様々な運動介入による脳機能への効果の違いについて論じられ、明確な結論には至っておりません。そのため両者の因果関係を明らかにするような、分子レベルからの解析が近年必要とされております。今回紹介する論文では、運動とAD改善を繋ぐ因子としてホルモンirisinに着目し、irisinの新しいAD治療薬としての可能性が示されております。
 運動により分泌が誘導される
irisinは、骨格筋に発現する膜タンパク質FNDC5が切断されることで生成されるマイオカインであり、これまで褐色脂肪細胞の成長、熱産生を促進することが知られてきました。本論文は、骨格筋だけでなくFNDC5が海馬や大脳皮質にも発現しirisinを分泌していることを見出し、脳内FNDC5/irisinの機能とADとの関連性を疑ったことから始まります。
 実際に
AD海馬と脳脊髄液中においてFNDC5 / irisinのレベルは減少しており、またFNDC5 / irisinをマウス脳内でノックダウンさせるとシナプス伝達の長期増強が減弱し、新規物体認識記憶の低下が見られました。反対にFNDC5 / irisinを脳内で過剰発現させると低下していたADモデルマウスのシナプス可塑性が回復し、正常な認知学習行動が観察されました。さらに運動刺激により誘導される末梢性FNDC5 / irisinADに対する効果の検討が行われました。運動したADモデルマウスの末梢性FNDC5 / irisinを阻害すると、運動介入により得られる脳機能向上効果が無効化されました。以上の結果からFNDC5 / irisinを介した運動介入によるAD改善効果が示唆されました。今後は、さらなるFNDC5 / irisinADに対する分子メカニズムが解明され、創薬化に繋がるような研究を期待したいと思いました。
(文責:多田敬典)

PDF (131KB)


海外文献紹介2019年1月号

Functional aspects of meningeal lymphatics in ageing and Alzheimer’s disease.
「加齢およびアルツハイマー病における髄膜リンパ管の機能的側面」

Sandro Da Mesquita et al.
Nature.
560: 185-191 (2018).

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/30046111

 リンパ管には間質液中の水分やタンパク質・老廃物などを血液循環に戻すという重要な役割があります。脳組織で生じた代謝産物は脳脊髄液を介して血液循環に排導されますが、これまでのところ、脳実質中には体の他の部位で認められるようなリンパ組織は見つかっておりません。近年、脳周囲に位置する髄膜(ただし、脳実質ではない)のリンパ管が、脳脊髄液の排出経路として寄与することが報告され、髄膜リンパ管の役割について注目されているようです。今月は、頭蓋内の髄膜リンパ管が脳脊髄液の排出を介して認知機能の維持に重要な役割を担うことを報告した論文を紹介させていただきます。
 まず本論文で著者らは、マウスの髄膜リンパ管にレーザー照射または外科的に結紮してリンパ管を傷害すると、脳脊髄液の流動が低下すること、恐怖記憶や空間学習・記憶が障害されることを示しました。続いて、老齢マウス(
20-24ヶ月齢)と若齢マウス(2-3ヶ月齢)を比べて髄膜リンパ管の加齢変化を検討したところ、脳脊髄液の流動およびリンパ管を介した脳脊髄液の排出は老齢マウスで低下していました。さらに老齢マウスの髄膜リンパ管は、直径が細く、分布が粗であること、そして髄膜リンパ管の新生成長因子に関わる遺伝子発現が低下していました。そこで著者らは、VEGF-C(血管内皮成長因子-C)が髄膜リンパ管の径を増大させるという著者らの先行研究を基に、AAV1ベクターでVEGF-Cを老齢マウスに発現させたところ、脳脊髄液の排出が増加し、空間記憶学習が向上することを明らかにしました。さらにVEGF-Cをハイドロゲルに添加して、経頭蓋的に作用させても類似の効果が認められました。著者らはさらにアルツハイマー病(AD)における髄膜リンパ管の変化について検討したところ、脳脊髄液の排出は、3ヶ月齢のADモデルマウスと同腹野生型マウスとで違いはないものの、ADモデルマウスの髄膜リンパ管を傷害すると、脳内のタンパクの蓄積が増悪し、マクロファージの浸潤が増加することを見出しました。
 本論文では、頭蓋内の髄膜リンパ管に着目して研究が展開されておりますが、脳脊髄液は、嗅神経鞘や硬膜-脊髄神経根の移行部からリンパ管を介して排導されることも知られております。同論文で報告されている加齢・病態時の変化が、頭蓋以外の部位でも生じるのか興味がわきました。

(文責:渡辺信博)

PDF (139KB)


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