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編集委員会からのお知らせ

 海外文献紹介2018年11月号

De novo NAD+ synthesis enhances mitochondrial function and improves health.

Katsyuba E et al.
Nature. 562: 354-359 (2018)
.

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/30356218

参考文献:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/7241241

 トリプトファンの異化代謝経路の中間代謝産物2-アミノ-3-カルボキシムコン酸セミアルデヒド(ACMS)から生じるキノリン酸のNAD+ de novo合成に着目した論文です。筆者らは、アミノカルボキシムコン酸セミアルデヒドデカルボキシラーゼ(α-amino-β-carboxymuconate-ε-semialdehide decarboxylase: ACMSD)を阻害することで、ACMSの分解を抑え、非酵素的閉環反応によるキノリン酸を増大させることで、NAD+de novo合成を促進することの生体(線虫・細胞・マウス個体レベル)への効果を検証しています。国内では、ACMSDに着目したトリプトファン-ナイアシン(NAD+)代謝系は日本栄養・食糧学会の学術誌であるJ. Nutr. Sci. Vitaminol.に報告があり(H. Sanada et al., 1980)、その研究分野の第一人者であられた真田宏夫先生(元千葉大学教授・当時国立栄養研究所)が筆頭著者になられています。
 当論文では、線虫
C. elegansとマウスをもちいて、ACMSDの阻害効果を検証しています。線虫では、ウリジン一リン酸(UMP)合成酵素がキノリン酸ホスホリボシルトランスフェラーゼ(QPRT)活性を担い、キノリン酸とホスホリボシル二リン酸(PRPP)からニコチン酸モノヌクレオチド(NaMN)を合成し、NAD+サイクルに入ります。これまで、老化研究分野ではNAD+サイクルを対象とした研究報告が多かった中、今回はNAD+de novo合成に焦点を当てた報告となっています。水溶性ビタミンのナイアシンでは余剰分は排泄され毒性はないが、キノリン酸では神経毒性が確認されるため、健康物質としての研究対象とは挙げられなかったと考えられます。初版投稿から丁度1年の校正期間を掛けて受理されていることから、隅から隅に至るまで入念な検討が行われた論文になっています(研究期間だけでなく研究費も莫大なものであったと想定されます)。
 線虫およびマウス・ヒト細胞株をもちいて、線虫
ACSD(哺乳動物ACMSD)のRNAi効果は、トリプトファン濃度依存的に生体内NAD+(細胞質NAD+)を増加させ、線虫Sir-2.1(哺乳動物Sirt1)を介したミトコンドリア活性(ミトコンドリア量・核コードOXPHOSタンパク質量・酸素消費量・ATP量)・抗酸化活性(線虫DAF-16, SOD-3/MnSOD/ 哺乳動物FOXO, SOD2/MnSOD)・UPR活性(ミトコンドリアミスフォールディングタンパク質分解系, 線虫Hsp-6, 哺乳動物mtHsp70)を亢進することを報告しています。また、肝臓の初代培養細胞では、中性脂肪蓄積による脂肪症や高脂肪酸蓄積による細胞死を軽減すると報告しています。
 哺乳動物では、腎臓で最も高い転写を示し、次いで肝臓・脳で、脳では腎臓と比較して
1/1,300、肝臓と比べて1/30程度となっているようです。そこで、筆者らはキノリン酸蓄積の神経障害が生じないことを確認した上で、初代肝細胞培養系、HK-2腎培養細胞系およびマウス個体を用いたACMSD阻害剤(肝臓標的薬TES-991, 腎臓標的薬TS-1025)の効果を検証しています。その結果、培養細胞系ではRNAi効果と同様の結果が得られたが、若齢で健康なマウス個体ではニコチン酸の減少に伴うNAD+量の増大のみ確認され、その他の効果は得られなかったと報告しています。そこで、ACMSD阻害剤の効果の検証対象を疾患モデルへと変更しています。肝臓を対象とした試験では、NAFLDあるいはNASHモデルにおいてTES-991の効果、腎臓を対象とした試験では、急性腎不全モデルにおいてTES-1025の効果を検証しています。これらの疾患モデルに対して、ACMSD阻害剤はそれらの症状を軽減し、予防効果および改善効果も期待できると報告しています。
 以上の結果から、筆者らは肝臓や腎臓の疾患における
ACMSD阻害剤の薬効を期待するとしています。また、今回検証できたACMSD阻害剤によるNAD+の増加に伴うSIRT1活性の長期的効果に依存した生理機能改善を期待するとしています。最後に、当該結果・考察を踏まえ、加齢に伴うACMSD活性の変化、および高齢でのACMSD阻害効果を検証する今後の研究展開に期待を馳せつつ、本論文紹介を終えさせていただきます。最後までお読みいただき有難うございました。
(文責:石井恭正)

PDF (157KB)


海外文献紹介2018年10月号

The UK Biobank resource with deep phenotyping and genomic data.

Bycroft, C., Freeman, C., Petkova, D., et al.
Nature. 562: 203-209
(2018).

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/30305743

 本論文はイギリスのバイオバンクで開始されたコホート研究の紹介である。コホート研究では通常ある地域に住む集団の住人に対し、あらかじめ設定した調査項目について長期に渡り定点観測する。疾患発症前の生体情報が得られるので、たとえばある疾患関連因子の発症との因果関係がわかることや、対象集団を母集団とみなして罹患率を計算できることが、症例対照(ケースコントロール)研究との違いである。
 このプロジェクトの素晴らしいところはまずその人数である。英国全域から40〜69歳の、これから成人病や認知症に罹患するリスクが高まるという年代の参加者が50万人という前例のない規模で登録して、ゲノム解析(80万の
SNP解析)をはじめとする様々な検査を受けている。これは、ある個人に対して最適な医療を提供しようとするプレシジョン医療を実現するには、まず多様なゲノムとその表現型(身体的特徴と機能)、ライフスタイルを可能な限り詳述した上で、それらを個人の追跡調査から得られる生体情報・医療情報と結びつける必要があるからである。そこから疾患のリスクを高める遺伝的構成がどのようなものか、それはどれくらいリスクを高めるのか、またその遺伝的構成に対して処方されるべき有効で副作用の少ない治療薬や投与量、予防に有効な生活習慣はなにかといった、プレシジョン医療に必要となる情報を蓄積するわけである。その情報精度は参加者の人数に依存するから多いほど望ましい。
 そしてこのプロジェクトのもう一つの素晴らしいところは、得られたジェノタイピングデータ、医療情報などすべてのデータがはじめから、オープンアクセスであるという点である。通常、このような研究では研究成果は論文発表まで公開されず、またされたとしてもその一部であることが多い。
UKバイオバンクは2012年からデータのオープンアクセス化を図っているが、これによりすでに投稿中も含めると600以上もの論文が先行研究のデータをもとに執筆されているとのことであり、今回の研究で、今後その数は一層増えることになる。
 この論文はあくまで本コホート研究の紹介であり、その成果の報告はこれからである。たとえばこのコホートの一部(それでも1万人)は脳画像の検査も受けていて、脳の構造と機能に対する遺伝的影響が、本論文に続く論文で示されているが、今後の追跡調査により、それがさらに認知症をはじめとする神経変性疾患と関連づけられるに違いない。検査項目には握力や骨密度も含まれているから、いずれサルコペニアや骨粗鬆症の遺伝的素因も明らかになり、そこからモデル動物でのエビデンス取りが始まるだろう。まさに老化の基盤研究である。
(文責:下田修義)

PDF (122KB)


海外文献紹介2018年9月号

Combined adult neurogenesis and BDNF mimic exercise effects on cognition in an Alzheimer's mouse model.

Choi, S. H., Bylykbashi, E., Chatila, Z. K., et al.
Science 361, eaan8821 (2018).

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/30190379

Alzforum: https://www.alzforum.org/news/research-news/exercise-pill-pharmacological-mimics-boost-cognition-lazy-mice
参考文献1:
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/10195220
参考文献2:
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/29679070

 さて、今回もALZFORUMで取り上げられていた最新論文を紹介させていただきます。基本的に、生後成熟した脳組織において神経細胞は分裂増殖しないと考えられていますが、海馬苔状線維などの一部領域では神経細胞の新生が報告されています(=adult neurogenesis)。Adult neurogenesisWnt-3の発現とシグナル伝達によって促進されることが知られていますが、近年では適度な運動によってもadult neurogenesisが促進されるという報告が寄せられています(文献1& 2, van Praag H, et al., Nat Neurosci 1999; Toda T, et al., Mol Psychiatry 2018)。
 今回、Choiらはアルツハイマー病(AD)の遺伝子改変モデルマウス(5xADマウス:家族性ADに由来する遺伝子変異部位を複数有するamyloid precursor proteinpresenilin-1double transgenic mouse)を用いて、adult neurogenesisによる神経細胞の保護効果について興味深い成果を発表しました。Choiらは過去にマウスを用いたドラッグスクリーニングによって、P7C3というadult neurogenesisを促進する薬剤を同定しています。そこで、上述した5xADマウスにP7C3の投与とレンチウイルスベクターによるWnt-3の脳内遺伝子導入を行ったうえで、運動負荷(ケージ内への回転車設置)の有無による脳神経系への保護効果を検証しました。その結果、薬剤投与と遺伝子導入によってadult neurogenesisは有意に促進されたものの、老人斑病理の軽減や認知機能の改善は見られないという結果が得られました。一方、運動負荷を与えた実験群ではadult neurogenesisの促進のみならず、神経栄養因子であるbrain-derived neurotrophic factorBDNF)や、IL-6(炎症性サイトカイン)、FNDC5(白色脂肪細胞の褐色脂肪細胞化に関わるホルモン)の発現上昇が確認され、老人斑病変の軽減と認知機能の改善が見られました。次に、adult neurogenesisを促進したマウスにBDNFIL-6FNDC5をそれぞれ追加で遺伝子導入したところ、運動負荷による認知機能改善効果はBDNFによるものである可能性が高いと示唆されました。
 運動による認知機能改善効果については既に様々な報告がありますが、現実問題として、高齢者の運動機能は高くなく、過度な運動量の負荷がかえって健康を損ねる可能性もあります。そこで筆者らは、BDNFの発現上昇を誘導する薬剤の投与で運動の代替に出来ないかと考え、adult neurogenesisを促進したマウスにAICARという薬剤を投与してその効果を検討しました。その結果、老人斑病理の軽減こそ認められなかったものの、運動負荷を与えたマウスと同様に認知機能の改善が確認されたため、薬剤によるBDNFの発現誘導は高齢者にとって運動効果と同等の認知機能保護効果が期待できることが示唆されました。一方、運動負荷による老人斑病理軽減のメカニズムについては謎が残りますが、認知機能の改善と老人斑病理の軽減が必ずしも相関しなかったことから、老人斑病理は必ずしも臨床病態を反映するマーカーではないとも筆者らは指摘しています。
 今回の論文で最も重要なポイントは、運動しなければ神経新生を誘導しても認知機能は改善しないという点です。前回の海外文献紹介ではApoE4というコレステロール輸送関連蛋白質に注目した論文を紹介いたしましたが、やはり全身性の代謝変動が脳神経系の機能維持に重要であることは疑いようがないと考えます。今後はより一層、代謝研究と神経変性疾患研究のリンクが重要になってくるのではないかと考えます。
(文責:木村展之)

PDF (144KB)


海外文献紹介2018年8月号

A Zombie LIF Gene in Elephants Is Upregulated by TP53 to Induce Apoptosis in Response to DNA Damage.
象ではゾンビのように蘇ったLIF遺伝子が
DNA損傷によるp53により活性化され細胞死を誘導する」

Vazquez, J. M., Sulak, M., Chigurupati, S., & Lynch, V. J.
Cell Reports 24: 1756-1776, 2018.

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/30110634

 発癌は細胞分裂による複製ストレスが要因と仮定すると、細胞数が多いと分裂回数が多くなり、大型動物は発癌リスクが高いと考えられる。しかし癌の発生率と体のサイズに相関がなく、Petoのパラドックスと呼ばれている。象などの大型動物は人間にはない特別な抗癌メカニズムを持つことが推定されている。人間は体重60 kgで細胞数が37兆個と推定されているので、象の体重は6,000 kgで人間の100倍なので、単純に細胞数は3,700兆個と推定される。ちなみにマウスの細胞数は、80億個と算定されていて、体重30 gとすると桁は合致している。
 著者等は、象を含む近蹄類の遺伝子を詳細に調べ、象の細胞には癌抑制因子として働けるLeukemia inhibitory factor (LIF)遺伝子が特徴的に多コピー存在していることを明らかにした。特に配列情報から偽遺伝子と推測された細胞質型LIF6が実際に機能的に発現し、DNA損傷薬に対する細胞死の感受性が高いことを明らかにした。象細胞は、DNA損傷応答メディエーターであるp53によってLIF6が活性化され、DNAが損傷した細胞に細胞死を引き起こすと結論している。またLIF6を他の動物種細胞に導入しても象細胞と同じようにDNA損傷薬に対する細胞死が高まること、また細胞死はカスパーゼ阻害で抑制できることも実証している。象はLIF6を甦らせることでDNA損傷を受けた細胞を積極的に細胞死させ、大きな体の恒常性を維持していると考えられる。
 進化の過程で、象は他の動物とは異なる固有の抗癌システムを構築したことが示唆され、老化細胞も同じようなシステムで制御しているかなど、興味の尽きない論文であった。
(文責:清水孝彦)

PDF (104KB)


海外文献紹介2018年7月号

Senolytics improve physical function and increase lifespan in old age.

Xu, M., Pirtskhalava, T., Farr, J.N., et al.
Nature Medicine 55: 1-15, 2018.

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/29988130

 今回紹介させていただく論文は、今年2月に愛知県大府市で開催された13th International Symposium on Geriatrics and Gerontology (ISGG)でも講演された、Mayo ClinicJames L. Kirkland博士らのお仕事です。
 近年、多くの研究者らによって、加齢に伴い複数の臓器で老化細胞が蓄積することが明らかにされ、そこから分泌される
SASP (senescence associated secretory phenotype)が慢性炎症を引き起こすことが報告されています。また、トランスジェニックマウスを用いて、遺伝学的に老化細胞を除去することによって、組織恒常性の維持や寿命延伸が可能であることが明らかにされてきました。さらに、本論文でも述べられている様に、ヒトへの応用を見据えて、薬学的に老化細胞を除去することができるsenolytic薬が開発され、その効果が複数のグループから報告されています。しかしながら、老化細胞そのものによって老化様の症状を引き起こすのかという点と、senolytic薬による老化細胞の除去が老化の症状を改善させるのかという点については不明でした。
 まず筆者らは、
6ヶ月齢の若いマウス、17ヶ月齢の比較的老齢なマウス、8ヶ月齢 + 高脂肪食負荷のマウスそれぞれに老化細胞をインジェクションし、身体機能の変化について観察しました。その結果、コントロールと比較して歩行スピードや筋力が優位に低下することがわかりました。さらに、その影響は老齢個体や高脂肪食負荷個体で、より顕著に現れることがわかりました。また、注射した老化細胞が正常細胞の細胞老化を促進させることがわかりました。このことが、一度の老化細胞の注射が長期に渡って全身性の影響を及ぼす原因だと筆者らは考察しています。次に筆者らは、senolytic薬のdasatinibquercetin (D + Q)が肥満患者由来の脂肪組織における老化細胞除去およびSASPの減少に働くことを確認しています。そして、マウスへのD + Q投与によって、前述の老化細胞インジェクションで観察された歩行スピードおよび筋力の低下を予防できることを示しました。最後に筆者らは、すでに老化したマウス(24-27ヶ月齢)にD + Qを断続的に投与することで、投与後の寿命が中間値で36%延伸したと報告しています。本論文の結果だけを見ると、D + Qは夢の薬という印象を受けますが、D + Qの副作用に関する論文も報告されているため、今後のさらなる解析と現在進行中の臨床試験の結果に期待したいところです。
(文責:赤木一考)

PDF (118KB)


海外文献紹介2018年6月号

The Gut Microbiota Mediates the Anti-Seizure Effects of the Ketogenic Diet.
「てんかんに対するケトン食の効果は、腸内細菌叢に依存する」

Olson CA, Vuong HE, Yano JM, Liang QY, Nusbaum DJ, Hsiao EY.
Cell 173(7): 1728-1741.e13, 2018.

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/29804833

 今回紹介させていただく論文は、今月のCell誌に掲載されたUCLAElaine Hsiaoの研究チームによるてんかんに対するケトン食の効果と腸内細菌叢の構成変化との機能的関連性を示した内容についてです。Hsiaoらはこれまでも腸内細菌叢の異常と自閉症病態メカニズムとの因果関係について報告しており(Hsiao et al., Cell, 2013)、腸と脳の相互関係について大変興味深い研究を展開しております。
 これまで低炭水化物、高脂肪のケトン食は、既存の抗てんかん薬に反応性を示さない難治性てんかんに対して、効果的な治療法とされてきました。しかしながら、その作用機序は十分に明らかとされてきませんでした。本論文で筆者らは、特定の腸内細菌群がケトン食摂取によるけいれん症状の抑制に関与していると考え、それを証明するためにケトン食を摂取させた抗生物質処置マウスと無菌飼育マウスを用いて、けいれん症状への影響を検討いたしました。また、けいれん症状に影響を及ぼす腸内細菌として、ケトン食摂取により構成割合が増える
Akkermansia muciniphilaParabacteroidesを同定しました。実際、これら腸内細菌を投与された通常食摂取マウスでは、ケトン食摂取と同様にけいれん症状の改善が見られました。さらに結腸内腔、血清および海馬のメタボローム解析を行った結果、全身性のgamma-glutamylated amino acidsの低下、また海馬領域でのグルタミン酸に対する抑制性神経伝達物質GABA量の上昇が認められ、けいれん症状との高い相関性を示しました。以上の結果より、ケトン食に誘導される腸内細菌叢の変化がてんかん症状改善につながることが推察されました。近年ケトン食は、認知機能や生命予後の改善に影響を及ぼすなど注目を浴びております(Newman et al., Cell Metabolism, 2017)。本論文を読み、さらなる食環境や腸と脳機能との包括的な研究が加齢研究領域において必要であると強く感じました。
(文責:多田敬典)

PDF (120KB)


海外文献紹介2018年5月号

Dietary salt promotes neurovascular and cognitive dysfunction through a gut-initiated TH17 response.
「食塩は腸内
TH17細胞の応答を通じて神経血管および認知機能低下を助長する」

Giuseppe Faraco, David Brea, Lidia Garcia-Bonilla, et al.
Nat. Neurosci. 21(2): 240-249, 2018

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/29335605

  厄除けなどのために盛り塩をしたり、スイカに塩を振ったり、日本の文化に「塩」は欠かせないものですが、食塩摂取による健康への影響については、議論があるところのようです。今月は、過剰な食塩摂取がどのように脳機能に悪影響を及ぼすのかを示した研究論文の紹介をさせていただきます。
 著者らはマウスに高食塩食(4%または8%NaCl)を与え、脳血流測定や行動試験等を実施しました。対照群(0.5%NaCl)と比較し、高食塩食を給餌した群では、給餌開始8週の時点で安静時の大脳皮質血流が低いことが示されました。さらに、高食塩食群では大脳皮質へのアセチルコリン投与で生じる脳血流増加が減弱していることに加え、アセチルコリン投与で生じる脳血管内皮からのNO産生が消失していることが明らかにされました。行動試験においては、対照群は馴染みのある物体よりも新規物体に接触している時間の方が長い(新規物体認識試験)のに対し、高食塩食群(給餌開始12週の時点)ではいずれの物体とも同程度接触するなど、認知機能の低下が示唆されました。これらの結果より、高食塩食摂取により血管内皮機能が障害されることで、脳血流量が低下し、認知機能が障害されることが推察されます。
 続いて著者らは、高食塩食がTH17
細胞(ヘルパーT細胞のサブセット。IL-17を産生する)の分化を促進させることや自己免疫に対する脳の感受性を上昇させることを報告した先行研究をもとに、高食塩食の作用機序としてIL-17TH17細胞の関与を検討しました。その結果、IL-17a欠損マウスやIL-17中和抗体を投与したマウスにおいては、高食塩食給餌による脳血管および認知機能に影響が認められないことより、高食塩食摂取の影響は、IL-17により引き起こされることが明らかにされました。さらに、高食塩食群で小腸におけるTH17細胞数が顕著に多く、血漿IL-17レベルも高いことが示されました。IL-17と脳血管機能低下との関係を検討したところ、IL-17により誘発される内皮型NO合成酵素のリン酸化およびアセチルコリンによるNO産生減少がRhoキナーゼ阻害薬により防がれること、さらにRhoキナーゼ阻害薬は高食塩食で生じる脳血管および認知機能への影響を阻害することが示されました。
 以上の結果より、食塩の過剰摂取により生じる脳血管および認知機能低下は、小腸内で
TH17細胞の増殖が誘導されて血中IL-17レベルが上昇した結果、脳血管におけるRhoキナーゼが活性化し、血管内皮NOの産生が減少することにより引き起こされると結論づけられました。なお本論文においては、高食塩食を摂取してもマウスの血圧に影響しないことより、脳血管・認知機能への影響が血圧異常によるものでない点も興味深く感じました。暑くなるこれからの季節、熱中症予防の観点からも適切に塩分・水分を摂取したいと思いました。
(文責:渡辺信博)

PDF (114KB)


海外文献紹介2018年4月号

Effects of 2 years of caloric restriction on oxidative status assessed by urinary F2-isoprostanes: The CALERIE 2 randomized clinical trial.

Il’yasova D, et al.
Aging Cell, 2018 Apr, 17(2). doi: 10.1111/acel.12719.

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/29424490

  カロリー制限(CR)には寿命延長効果があり,様々な疾病の発症リスクを下げることが知られている.老化に対するCR 効果のメカニズムの一つとして,酸化ストレスの軽減が提唱されている.げっ歯類でのCR 研究は多くのエビデンスがあるが,長期のヒトにおけるCR 実施時での酸化ストレスの関与・変動に関する報告は少ない.そこで筆者らは,ヒトにおける2 年間の25%CR実施時の酸化ストレスの変動を報告している.肥満や糖尿病時に増加する尿中のF2-isoprostanes(iPS)量を測定した結果,CRを実施した人(143 人)の尿中iPF2α 濃度は,開始12 か月後に開始前と比較して17%有意に低下,非CR 群とでは8 倍以上もの差があったことを明らかとした.更にその値は体重変化とも類似していた.しかし,CR 実施12 と24 か月後とでは有意差は無かった.本研究では,非肥満者でもCR 実施によりiPF2α 値の有意な低下が示された.筆者らはこの理由として,血漿中のleptin 値の正の相関と,insulin 感受性での負の相関を指摘している.更に,この実験ではマルチビタミンとカルシウムのサプリメントも長期服用していることから,CR 実施時には抗酸化物質を摂取し,酸化ストレスを軽減することが重要だとしている.
(文責:福井浩二)

PDF (107KB)


海外文献紹介2018年3月号

Rev1 contributes to proper mitochondrial function via the PARP-NAD+-SIRT1-PGC1α axis.

NB Fakouri et al.
Sci Rep. 7, 12480, (2017).

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28970491

 DNA 損傷修復が誘導されることで起こるDNA 複製(障害)ストレスが、ミトコンドリアエネルギー代謝を変化させることを報告したものです。データ内容と考察に若干の乏しさを感じましたので、誠に恐縮でございますが末尾に小生の考察も加えさせて頂きました。ご一読いただけましたら幸いです。
 当論文では、損傷乗り越え型DNA 合成酵素Rev1 の欠損により、PARP1 依存性のDNA 損傷修復が誘導されDNA 複製ストレス状態となったMEF 細胞株およびマウス肝組織をもちいています。MEF 細胞と肝組織とでは部分的に異なる表現型が確認され、さらに雌雄差があったと報告しています。本論文では、その機序については全く検証しておらず、議論されておりませんでした。本論文紹介記事では、DNA複製ストレスによるエネルギー代謝変動をより単純に議論する上で、ある程度十分な解析結果が示されていたMEF 細胞株の結果に焦点を当て紹介させて頂きます。
 先ず、Rev1が核およびミトコンドリアに局在していることを確認した上で、Agilent Technologies(旧Seahouse Bioscience)社製の細胞外フラックスアナライザーによる酸素消費量解析を実施しています。一般的な結果表記と異なり、プロトン漏出量や非ミトコンドリア呼吸量が示されておらず、信憑性に欠けますが、筆者らはRev1 欠損細胞では基礎呼吸量は高くなり、ATP 産生に依存した酸素消費量(ATP 産生量)は上がったと報告しています。一方で、電子伝達活性のみに依存した酸素消費量変化(予備呼吸量)は下がったと報告しています。同時に、Rev1 欠損細胞株ではミトコンドリア膜電位とROS 産生量が増加したと報告しています。また、ATP 産生量は増加した一方で、細胞内ATP 存在量が低下していたことから、Rev1 欠損細胞株では、ATP消費量が増加しているのだろうと考察しています。
 次に、一細胞当たり(核膜タンパク質LaminB1 にて補正)の電子伝達鎖複合体I(NDUFB8), II(SDHB), III(UQCRC2), IV(MTCO1)およびATP 合成酵素(ATP5A)の構成タンパク質存在量をウェスタンブロット法により解析しています。その結果、ATP 合成酵素に有意な変化は見られないが、電子伝達鎖複合体I, II, III は有意に増加したと報告しています。この結果は、電子伝達活性のみに依存した酸素消費量(予備呼吸量)が減少したことと矛盾しているように思われます。
 さらに、電子顕微鏡により細長く断片化したミトコンドリア形態を観察し、ウェスタンブロット法によりミトコンドリアの分裂を促すリン酸化DRP1 (Ser616)が穏やかに増加していることを確認しています。これに伴い、自食作用の最終段階で生成されるLC3BII タンパク質量が増加していたことから、断片化したミトコンドリアがミトファジー(ミトコンドリア自食作用)の標的となっているだろうと考察しています。しかしながら、さらなる酸化ストレス刺激によるミトファジーの促進は誘導されなかったと報告しています。これは、AMPK活性が誘導されないことが原因であったと、ウェスタンブロット法によるリン酸化AMPK (Thr172)の定量結果から考察しています。
 最後に、Rev1 欠損によるDNA 損傷修復誘導とミトコンドリアエネルギー代謝変動を併せて考察するため、NAD+代謝に着目し、ウェスタンブロット法による解析をおこなっています。先ず、NAD+を消費するPARP1 存在量がRev1 欠損細胞株で増加していることを確認し、細胞内NAD+の減少と共にSirt1-PGC1a 存在量が低下していることを確認しています。さらに、ATP 存在量およびSirt1-LKB1-AMPK 活性の低下によりAkt-mTOR シグナルが活性化し、SOD2 転写活性が低下することで、より酸化ストレス感受性を呈したと考察しています。
 以上の結果から、当論文の著者らは、Rev1 欠損細胞では「PARP1 依存性DNA 損傷修復の誘導→DNA 複製ストレスの惹起→NAD+存在量の低下→Sirt1-AMPK, PGC1a活性の低下→ミトコンドリアエネルギー代謝の変動(低下?)・ストレス感受性の増加・自食作用(ミトファジー)の低下」が起きていると述べています。

 以上が、当論文著者らの結語になります。本論文紹介記事では、筆者の勝手で(^^ゞ更に考察を追加させて頂きたいと思います。著者らは、AMP アナログであるAICARを投与すると、基礎呼吸量やATP 産生に依存した酸素消費量(ATP 産生量)は変化しないが、電子伝達活性のみに依存した酸素消費量変化(予備呼吸量)の変化(Rev1欠損細胞では減少・コントロール細胞では増加)が増大すると報告しています。当論文で触れているSirt1・AMPK・PGC1a 活性の低下では説明できないミトコンドリアエネルギー代謝活性および調節機構が存在することを意味しています。さらに著者らは、Rev1 欠損細胞株は呼吸鎖(特にフラボタンパク質)依存性の酸化剤として知られるメナジオンに対し高感受性を示すこと、および電子伝達系複合体I の阻害剤ロテノンの投与によりリン酸化DRP1 (Ser616)を増加させ、ミトコンドリアの断片化を著しく促進することを示しています。すなわち、Rev1 欠損細胞株は複合体I とII の阻害剤に対して著しく高い感受性を呈すことを報告しています。
 これらの結果を踏まえ、「ミトコンドリアエネルギー代謝の低下あるいはその障害」と単純に表記した結論は相応しくないことを指摘しておきたいと思います。最近、ミトコンドリア電子伝達系には脂肪酸代謝を中心にde novo 合成やNAD+産生を促進するReverse electron transport(複合体II-I 電子伝達鎖)が存在していることが報告されており、当論文ではこれらのエネルギー代謝を検証すべきであったことを指摘させて頂き、本論文紹介記事を終了させて頂きたいと思います。最後までお読みいただき有難うございました。
(文責:石井恭正)

PDF (160KB)


海外文献紹介2018年2月号

Aging and neurodegenreration are associated with increased mutations in single human neurons.

Lodato MA, Rodin RE, Bohrson CL et al.
Science. 2018 Feb 2;359(6375):555-559.

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/29217584

  筆者が半年前に紹介した文献は、組織における老化の特性の一つが個々の細胞間での転写のばらつき(偏差)が大きくなることにあることを示したが、今回取り上げた文献はその体細胞突然変異版である。
今回の研究では様々な年齢の健常者の脳(前頭前野と海馬)に加え、コケイン症候群および色素性乾皮症というDNA 修復遺伝子の異常により神経変性を早期に発症する患者の脳から神経細胞を分離し、計161 個もの単一成熟神経細胞について全ゲノムシーケンスを行い、体細胞突然変、具体的には体細胞一塩基バリアント(以下、バリアント)の出現数や変異シグネチャー(特性)を解析した(なお、以前より日本人類遺伝学会は、バリアントの訳を「変異体」から「多様体」に変更するように提唱している)。
 その結果、以下の3 点が明らかになった。一つ目は、バリアントは歳とともに増えるのだが、その増え方はリニアであること。このことは、DNA 修復系のフィデリティは生涯を通じて一定であることを意味している。二つ目は同じ年代の健常者で、海馬歯状回の方が前頭前野より2 倍ほどバリアントが多く検出されたこと。これは細胞のタイプでバリアント発生率が異なることを示唆している。三つ目は上記神経変性疾患の前頭前野においてはバリアントが健常者と比較して2.3~2.5 倍多く見つかるということ。これはそれら疾患の原因遺伝子がDNA 修復異常にあるとすれば想定通りであった。
 バリアントの特性を見ると、やはり他の生物種でもそうであるが、シトシンの脱アミノ化によると推定されるC→Tへのバリアントが多かった。また健常者の前頭前野で見られたバリアントはコーディングのエキソンによく見つかり、さらにそのなかでも転写読み取り鎖の方にバイアスが見られ、また神経機能に関与する遺伝子にエンリッチしていたということである。これらの結果は転写がDNA 変異の主要な原因の一つであることを、つまり個体が生きていく上でバリアントの発生からは逃れられないことを示唆している。
 以上の結果に基づく彼らのモデルによると、80 歳前後の健常高齢者では2,000 の神経細胞あたり一つにおいて、有害なバリアントをホモに持つ遺伝子が一つ存在する計算になるらしい。そしてこの頻度は10 歳前後のコケイン症候群、および20 歳前後の色素性乾皮症の神経細胞で見られたノックアウト遺伝子頻度と同程度であることから、歳をとった神経細胞は若い神経変性患者のそれと同程度のダメージを受けているかもしれないとしている。そして、これらの結果は、DNA 変異と老化の関連という古典的な仮説に一致するとまとめている。
 加齢に伴うバリアントの生成率およびその特性について本研究が明らかにしたこれらの情報は今後のさまざまな老年医学のレファレンスとなり得る非常に貴重なものであると筆者は考える。その一方、コケイン症候群や色素性乾皮症を早期老化症とみなし、健常高齢者と比較する議論には違和感を覚える。それらの疾患はDNA 修復系に関わる遺伝子の変異が原因となるが、それらの産物は基本転写因子複合体の中に含まれる。したがって発症が、DNA 修復ではなく転写の機能低下による可能性もあり、両者を比較することの妥当性はまだ得られていないからである。ともあれ、このような加齢に伴う生体内分子の変化の詳細な記載こそが老化研究の礎であり、最先端のテクノロジーを活用してその研究が行われ、またそれが高く評価されるということで、さすが米国はサイエンスの本場と感じた。
(文責:下田修義)

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海外文献紹介2018年1月号

ApoE4 Accelerates Early Seeding of Amyloid Pathology.

Liu CC, Zhao N, Fu Y, Wang N, Linares C, Tsai CW, Bu G.
Neuron. 2017 Dec 6;96(5):1024-1032.e3.

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/29216449
参考文献:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25675436

 アルツハイマー病(AD)を主とする神経変性疾患研究のニュースサイトであるALZFORUM に掲載されていたので御存知の方も多いと思いますが、孤発性AD の最も強力なリスク因子であるApolipoprotein E(ApoE)に関する興味深い論文が、昨年12 月立て続けに発表されました。ApoE は脳内でのコレステロール輸送に不可欠なリポ蛋白質ですが、ヒトにはɛ2(ApoE2)、ɛ3(ApoE3)、およびɛ4(ApoE4)という3つの対立遺伝子が存在します。大部分の方はApoE3 を保有しているのですが、ɛ3/ ɛ3を基準とした場合にɛ3/ ɛ4 は約3 倍、そしてɛ4/ ɛ4 は何と約15 倍にもAD 発症リスクが高まることが知られています。逆に、ɛ2 を保有しているとAD 発症リスクが低下することもよく知られており、以前から多くの研究者がApoE に注目した研究活動を続けてきました。とりわけ、ApoE がコレステロール輸送に重要な働きをすることから、脂質代謝との関係性が指摘されてきたのですが、その詳細なメカニズムは依然として不明な点が多いことも事実です。
 今回、Liu らは遺伝子改変マウスを用いてApoE に関する興味深い成果を発表しました。AD 患者の大脳皮質では老人斑と呼ばれるβ アミロイド蛋白(Aβ)の凝集・沈着病変が多数確認され、Aβ の蓄積がAD 発症の鍵を握ると考えられています。そこで、Liu らは脳内でAβ を過剰産生する遺伝子改変マウスとヒト型ApoE のノックインマウスを交配させたところ、ApoE4 を有するマウスはApoE3 に比べて老人斑の形成がより早期から始まるが、最終的に形成された老人斑の大きさや量には変化がないという事を発見しました。つまり、ApoE4 はAβ 病理の形成を加速化するが、かといって重篤化には繋がらないということです。
 近年のAD 研究領域では、遺伝的リスクのみならず環境的(後天的)リスクにも大きな注目が集まっており、中でⅡ型糖尿病に大きな関心が寄せられています。特に、AD モデルマウスにⅡ型糖尿病を誘導してやると、Aβ 病理の形成速度のみならずTau2のリン酸化も亢進することが数多く報告されており、私自身もⅡ型糖尿病を自然発症したカニクイザルを用いて同様の現象を確認しています(Okabayashi et al., 2015)。ここで重要なのは、ApoE4 もⅡ型糖尿病も、Aβ 病理の形成を加速化するということです。Ⅱ型糖尿病は糖代謝のみならず脂質代謝の異常をも引き起こすことが知られており、AD 患者の脳内ではコレステロール量が健常人に比べて大きく変化しているという報告が存在します。このことから、老化に伴うAD 発症のリスクを握っているのはAβ そのものではなく、Aβ の病的変化を加速化する脂質代謝にこそあるのかもしれません。このところ、パーキンソン病の研究領域では腸内細菌と粘膜免疫に熱い注目が寄せられていますが、AD もまた全身性代謝の変化と深くつながっているのではないでしょうか。今後は、脳だけではなく全身性の変化を視野に入れて研究活動を進めていく必要性がますます増加していくように思われます。
(文責:木村展之)

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